★★ セーリングの原理 ★★

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・セーリングの世界では、エアロダイナミック(気体力学と流体力学)は切っても切れない関係にありますが、このホームページの趣旨でもある”セーリングの基本”から遠くはずれてしまいますので、ここでは帆走する上で直接関係する復元力、又は、前進力(推進力)やヒール力等を中心に説明しています。

最初に知っておかなければならない最も根本的な事は、セーリング・ボートと言えども水面を走る船であり、船は多かれ少なかれヒール(傾く)すると復元力が働き直立の状態に戻ろうとする力が働きます。特に、セーリング・ボートの場合、高いマストにセール(帆)を上げて風を受けて走ることから復元力の大きさは安全性にも関係して重要なことです。

復元力計算用・ハル断面イラスト 復元モーメント計算の一例

A;水線下断面積
B;浮力中心点
G;重心点
L;復元レバー

  M= A X L

復元力計算用のハル断面図

 ◆ 解 説 
・セーリング・ディンギーの復元力はヒール角度60°前後までありますが、実際に乗っている時にはハイクアウト(舷外に体重を掛ける)してヒール角度30°程度に止めるようにしないと、殆どの場合舵の効きも悪くなりブローチング(急激に風上に向かうこと)やコックピットがアカ(艇内に溜まる水)をすくい水船状態になり重くて走らなくなり、同時に復元力も無くなる為、走ろうとして再びチン(沈没の略語)と言ったことが出てきます。又、同様な事で艇種によって定員が決められていますが、定員を大幅に超えて乗った場合、水船状態と同様に艇体の復元力が無くなりヒール後、即、チンしてしまいます。

・セーリング・カタマラン(帆走用・双胴艇)の場合、一般には復元力が大きく単胴艇に比べて安定していると思われていますが、実際には風上のハルが浮き上がらない風速迄であって、ヒールにより片ハル帆走になると、カタマランの場合、最大復元力はヒール角度15°付近にある為、これ以上ヒールすると急激に復元力が低下し、非常に不安定な状態になるので、技量(腕)の低い乗り手はバランスが取れなくなりチンにつながってしまいます。

外洋等を走る単胴艇のセーリング・クルーザの横倒し状態はチンではなくロール・オーバーと言い、チンは復元力消失角度(艇種によって様々ですが110〜135°)になって初めてチンと呼びます。

●セーリング・ボートの風上に走る不思議より、特に走りを左右する要因としては、艇体、セイル、センターボード(或いはフィンキール)、ラダーがあげられるかと思います。ここで、最初に飛行機が空を飛ぶ原理から説明します。下図を見て頂くと分かるように、翼上下で空気の流れに差が出て、この差によって揚力が発生します。セールの原理もほぼ同じように揚力が発生します。

翼断面-揚力図・イメージ

翼断面に働く揚力図

 ◆ 解 説 ◆ この項目は設計と深く関わって、議論の元となるので大まかに説明しています。

・セーリング・ボートの場合、空気と水の境界に存在する為、セール(帆)は気体力学、ハル(艇体)は流体力学及び水力学、水中に存在するセンターボードとラダー・ブレード等は水力学と言ったように多方面に関わっているので、実際に走っている艇に焦点を合わせて簡単に説明しています。

・セール(帆)について、船と飛行機はご存じの通り、スピードについては桁違いに差があるので、上図のような飛行機と同じ翼断面を採用した場合、セーリング・ボートは気流の圧力が低い為、比較的前側の方で乱流が発生して期待したほどの推進力は得られないので、最大キャンバー(最大深さ)の位置は飛行機の翼に比べて後方に位置しています。

・ハル(艇体)について、性能に影響する一番の要素として造波抵抗があり、引き波の大小によって性能の良し悪しが左右されますし、その他、船全体のバランスや表面の滑らかさがあります。

・水中のセンターボードとラダー・ブレードは水と空気の密度差から、上図のような翼断面が参考となります。


●クローズ・ホールド時のセイル、センターボード等への作用力

クローズ・ホールド_セーリング・イメージ

 ◆ 解 説 ◆

・セイルについて、
 適正なセイル・トリム(風がセイル表面に沿って流れるように、調整しながら走っている場合)でセーリングしている時、セイルの前進力(揚力)は、上記、参考図のようにヒール力が増す程、スピードが出る、又は、風上に行ける事が分かるかと思います。
 又、別の見方をすると、可能な限りセイルを外側に出す事により、ヒール力が減少して前進力(揚力)が大きくなってスピードが出る場合もある事が分かるかと思います。

・センターボードについて、
 セーリングの中で一番センターボードが重要なのはクローズ・ホールドで、センターボードの機能によって、風上への上り角度に影響してきます。
 センターボードが機能(揚力が発生する時)するのは対水速度がある時で、例えば、船が風上に向かって止まっている時にセイルを引き込んで、いきなりクローズ・ホールドで走ろうとした場合、斜め後方(風下側)に流されてしまいます。
 故に、センターボードの機能(揚力の大きさ)は船のスピードによって変化し、スピードが速いほど揚力の中心は前方に移動し、風下側への押し下げに対抗する圧力(揚力)は大きくなります。
 クローズ・ホールドでセーリングしている時、船はより高い角度の風上に向かっていても、実際は横滑り(リーウェイ)しながらセンターボードに揚力(風下側への押し下げに対抗する圧力)を発生して走っているのが実際です。

・ラダーについて、
 ラダーは船を目的の方向へ向けて走らせる事が主な目的です。
 但し、セーリングの中でクローズ・ホールドの時はセイル表面に沿って流れる風に合わせて舵を取るのが主な目的です。
 参考図説明について、クローズ・ホールドでセーリングしている時、ニュートラル(中立)、又は、ウェザー・ヘルムに対抗するように舵を引いている時はセンターボードと同様な圧力(揚力)が発生します。

●風の性質について、夏と冬との空気密度の違いによる、風の重さの違いが有り、又、下図のように水面からの高さによって風速が異なると言ったことがあります。その他、地形や気候によって、吹いている場所と弱い場所が出てきます。

高さによる風速図-画像ファイル クロス・ホールド時の風速図-画像ファイル ウインド・アビームの風速図・画像ファイル
◆高さの違いによる風速図◆

◆クローズホールド時の風速図◆

◆ウインド・アビーム時の風速図◆

 ◆ 解 説 ◆

・上図より、マストの高い船ほど、強い風を受けて走れるので、有利であることがご理解頂けると思います。

・上図の風速図より、船は止まっていて風は自然の風で、風速は高さによって異なる為、セールへのツイストの必要性が出てきます。実際にセーリングしている時は見掛けの風に合わせて走るので、セーリング方向や風速の違いによってもツイスト量は変わってきます。一般に、見掛けの風が前方にシフトする程、セール・トップとフットへの見掛けの風の角度差は小さくなるのでツイストは少なくなります。上図を参考に、セーリング方向によって次の例のようになります。

  • クローズホールド;クローズホールド時の風速図より、風速が順風程度のマスト・トップとフットの角度差は3°強ですので、ツイストは殆ど無しに設定されても良いかと思います。

  • ウインド・アビーム;ウインド・アビーム時の風速図より、マスト・トップとフットの角度差はクローズホールドに比較して大きくなります。風速が順風程度で約11°〜12°のツイストとなります。

  • クォーターりー;この方向の風速図は省略しましたが、参考までに風速が順風程度でツイスト量は20°〜21°となります。

  • ツイスト角度差は風の強弱や波の高低差によって違ってきます。一般に、風が弱い時はツイスト角度差は大きくなり、強くなる程ツイスト角度差は小さくなります。又、波の高い時ほどツイスト角度差は大きくなり、波が低くなるに従って小さくなります。風速と波高の関係からすると矛盾して来ますが、普段の練習からベターな走りを見出すように心掛けましょう。

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 ☆☆ 風 上 帆 走(クローズホールド) ☆☆ 

上図の”●クローズ・ホールド時のセイル、センターボード等への作用力”を参照

 ◆ 解 説 ◆

・この時点では、センターボードとラダーは船底より十分に出ていて効果的に作用しているものと見なしています。
 但し、センターボードが効果的に作用していない場合には、艇体は風下へ流されますので、セイル表面を流れる風が弱いため前進するだけの
効果的な揚力が得られないので、風上へ走れません。

・セイルの総合力にはヒールさせる力(ヒール力)と前進力(推進力)があり、ヒールさせる力に対抗するためにセーリング・ディンギーの場合はハイク・アウト(舷外に体を移動して体重をかける)又はトラピーズを使って舷外へ出て体重をかけます。セイル・トリム(セイルの調節)が的確でハイク・アウトを継続出来るほど艇のトップ・スピードを維持できると言えます。

・一般に風の強いときは、セイルの総合力が大きくなるとヒール力と前進力も大きくなりますが、微風や波の状況によっては、この原理を応用しないと効率よく走らない場合もあります。

 ☆☆ 風を真横から受けての帆走(ウインド・アビーム) ☆☆

ウインド・アビーム・イメージ

 ◆ 解 説 ◆ 

・上図のクローズホールドの走りに対してヒール力が小さくなり前進力がグーンと伸びて来ます。風上帆走(クローズホールド)以外を一般にフリーと言っていますが、フリーのセンターボードの役目は進路を保持する事が主な役目となるので、風下へ流されない程度に出しておきます。
・セーリングの中で1番スピードの出る走りですが、スピードの上下動も激しく乗り手の体重移動が頻繁になる事も特徴的です。

 ☆☆ 風下への帆走(ランニング) ☆☆ 

左舷にローリングした場合 ローリングの対処法

・左右にローリングが始まると、更に助長されてローリングが大きくなりますので、これを緩和するよう体重移動やラダー又はセールを使って止めるように操作します。
・ラダーの使い方は、船を立て直すようにティラーをヒールした側に押す又は引きます。
・セールを調節する場合は、セールが出ている方向と反対側にヒールした時だけ、船を起こすように引いてやります。

左舷ローリング・イメージ
右舷にローリングした場合
右舷ローリング・イメージ

 ◆ 解 説 ◆ 

・順風以上になると、上図のようなキャットリグ(メイン・セールだけ)の場合はセールに受ける風力のバランスが不安定な事と、波等の影響によりローリング(船が左右に傾く)やブローチング(突発的に風上へ持って行かれる)により沈(セーリング用語で、沈没をする訳ではありませんが横倒しになることを”沈”と言っています)しやすい走りと言えます。スループの場合は、両側にセールを展開(観音開きと言います)出来るので、ローリングを減少できます。

・初心者の頃は風の方向を見失いやすい為、風が順風以上の時にワイルド・ジャイブ(予期しない間に、急激にメイン・セイルが反対側に移動する)によりブーム・パンチを受けて頭にコブを作ったり、船に嫌われて振り落とされるのが、このランニングです。

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