来年4月 消費税率5%へ!?
消費税率の見直し作業が始まっている。現行の消費税3%は、94年秋に国会において議決され、来年4月から5%にアップすることになっている。しかし、福祉財源の確保や、景気の動向、行政改革の進行状況によって、「税率を見直す必要が生じた場合、半年前の九月末までに結論を出す」との見直し規定が付則に盛られた。
そこで政府税調は九月末までに結論を出す方向で、4月23日から審議を開始した。
23日の税調総会後の会見で、加藤会長は「5%への引き上げを確実に実施すべきとの意見が体制を占めた」と述べ、消費税5%を既定路線化しようとしている。
更に、昨年一昨年と先行して実施されていた、特別減税(所得税と住民税)も、打ち切られる公算が大きくなってきた。
大蔵省は財源難の折り、特別減税継続の場合は、消費税5%はなく6%税率を持ち出してくる可能性もある。もともと、見直し規定をつくったとき、大蔵省は「6%への見直し」を多分に意識していた。実際、当時の武村蔵相と久保現蔵相(当時、社会党書記長)が、そうした発言をしている。
しかし、5%でも景気や生活に大変なしわ奇せを与えるのに、6%はとんでもない数字である。
だいいち、住宅金融尊門会社(住専)処理で国民に筋の通らない税金負担を押しつけようとしている政府・大蔵省に、消費税率の値上げを言う資格はないとの厳しい声を多い。
さらに、見直しに当たっては、政府・与党が「高齢社会への対応」と「行財政改革」に目鼻をつけることになっていた。
ところが、この二つとも全くといってよいほど、手がつけられていない。公的介護保険の実施が先送りになったことで、将来の社会福祉の財源は見通せなくなった。規制緩和やりストラを通じた行政改革にしても、自社さきがけの野合政権が炎いして大きく出遅れている。
何のための、見直し期間2年間であったのだろうか。
確かに日本の財政は危機に瀕している(別項で日本の財政状況は詳しく述べる)。消費税率の引き上げの論議は、ただ財政が苦しいという論理だけで済ませるわけにはいかない。政府が何をしたのか、何をやってこなかったかを、充分に総括しなくてはならいと主張したい。
ところで、消費税の実施の時と同じように、税率見直し時期に、消費税税率変更の駆け込み需要が発生することに注目したい。経過措置が改正消費税法と政令で決められており、その経過措置とは「9月30日までに締結された請負契約や、一定の貸付契約であれば、来年4月以降に資産の譲渡、貸付、労役提供が行われた場合」現行の3%でよい、というのである。
具体的には、注文建築のように、契約から、引き渡しまでの間に一定の期間が必要な取引の場合は、9月末までに契約を済ませれば、引き渡しが4月を過ぎても、現行の消費税率3%が適用されるというわけだ。住宅のような高額商品では、現行3%と5%の差、2%は無視できない金額である。
こうした動きに合わせて、住宅メーカーも「消費税駆け込み需要」をねらった販売戦略を展開している。
ミサワホームでは、低価格商品の発表と合わせて、来春以降の購入を希望する顧客に予約販売を行おうとしている。住友林業は、十月に販売予定だった予約販売システムを急遽この夏に前倒しで販売することにした。
残念ながら、3%据え置きが事実上困難な状況では、庶民のささやかな抵抗と言えないこともない。
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96.04.24 読売新聞朝刊
◆「固定資産」は算定法課題
23日に審議を再開した政府税制調査会は、まず5月半ばから、来年4月に税率が5%(現行3%)に引き上げられることになっている消費税の税率見直し論議に本格的に着手し、6月にも結論を出す。与党や産業界からは実施時期の先送り論なども聞かれる中、政府税調は、予定通り5%での実施を求めることになりそうだ。消費税引き上げと引き換えに所得税、住民税の特別減税を来年も継続するかどうかも論議のポイントになる。また、40年ぶりの大幅な見直しとなる法人税について「課税対象を広げつつ税率を引き下げる」方向で9月以降、本格的な審議を行い、11月に策定する中期答申に盛り込む。
【消費税】
財政事情が危機的な状況にあるため、当初大蔵省には6%以上に引き上げたい考えもあった。しかし、住宅金融専門会社(住専)処理に対する国民の反発が強いことや、公的介護保険の導入が先送りされたこともあり、「財政事情だけで、税率を上乗せすることは不可能」(主税局)との判断に傾いている。すでに所得税・住民税の先行減税を実施していることもあり、消費税法ですでに決まっている5%への引き上げは、何としても実施したい考えだ。
さらに今後は、高齢化の進展により所得税の伸び悩みが予想されるうえ、公的介護保険など社会保障の財源も必要になることから、中期答申には「再引き上げを含む見直しの必要性」が明記される見通しだ。
【法人税】
「国際的に見て高すぎるため、企業の活力を奪っている」と産業界を中心に負担軽減を求める声が高まっていることもあり、昨年10月に発足させた法人課税小委員会で、専門的な議論を進めている。「課税対象を広げつつ、税率を引き下げる」という政府の方針に沿って議論される見通しで、貸し倒れ引当金や退職給与引当金などさまざまな引当金の見直しや、優遇税制である租税特別措置の整理・縮小によって課税対象を拡大することで、現行の法人税の実効税率(49.98%)の引き下げを探る。
小委員会は、法人税の将来展望を中期答申に盛り込むことを前提に、検討結果を報告する。見直し可能なものから年末の九七年度税制改正の作業の中で論議する。
【土地税制】
96年度税制改正で、地価税率の半減、土地譲渡益課税の軽減など、地価下落に配慮した全面的な見直しを行った。
しかし固定資産税は、負担調整措置を拡大したものの、負担は年々増加している。97年度が3年に一回の固定資産税の評価替えの時期に当たり、「地価公示の7割」としている評価額について「負担が重すぎる」との批判が高まっていることから、評価額の算定方法の見直しが検討課題になりそうだ。また地価税と固定資産税は「同じ土地保有課税で二重課税だ」との批判が経済界にあり、政府税調内にも見直しを求める声があることから、それぞれの性格論や二つの税の関係も審議される見通しだ。
【その他】
所得税・住民税の特別減税については「景気は回復基調」として97年は実施しない方針だが、消費税引き上げの「見返り」として、与党などから継続を求める声が出ることも予想される。
欧州連合(EU)などが世界貿易機関(WTO)に提訴している焼酎(しょうちゅう)とウイスキーの税率格差問題では、WTOの結論が出るのを待って、焼酎の税率を引き上げる方向で検討する。
◇
《政府税調の主な検討項目と議論の方向》
審議項目 検討内容
消費税 予定通りの5%への引き上げ
法人税 課税対象を広げつつ、税率引き下げ
土地税制 地価税と固定資産税の関係
特別減税 景気が回復すれば打ち切り
生損保控除 統合を含め、縮小の方向
住宅取得 適用床面積の引き上げなど
促進税制
酒税 焼酎の税率引き上げる方向
納税者番号 導入の是非
96.03.27 毎日新聞朝刊
住宅金融専門会社(住専)の不良債権処理をめぐり、さまざまな問題が提起された。その一つは、ある幻想にかかわり問題を先送りすることの危険性であろう。「地価は下がっているが遠からず反転する」という幻想が、不良債権の傷口を広げた事実は、今回はっきりした。この教訓に基づき、今、真剣に考え直さなければならないのが「小さな政府」を維持できるという幻想ではなかろうか。この15年、「小さな政府」はわが国の財政運営の基本だった。しかし、現実を直視すれば、すでに破たんしているといわざるを得ない。厳しい現実から目をそらせば、後世への負担は恐るべきものになろう。幻想は一刻も早く断つべきだと考える。
今なぜ「小さな政府」を問題視するのか。この夏から秋口にかけて、消費税の税率アップが最大の焦点となる見通しで、その前哨戦が始まっているからである。そして、税率据え置き論の基盤になっているのが、「小さな政府」論なのだ。具体的に言おう。現在の消費税の税率は3%だが、9月末までに見直さなければ、来年4月から5%に引き上げられることになっている。日本はいま、世界史上例を見ないスピードで高齢化が進んでおり、最低限5%への引き上げは不可避である、との認識から国会で議決された。
◇地方含め“赤字”450兆円
ズバリいえば5%への税率アップは最小限の数字であり、介護保険などこれからの行政ニーズを考えれば、7%にすべきだとの認識が当然だといえる。細川政権の際、7%構想が発表され、パフォーマンスの悪さから却下されたが、行政ニーズに対応した税率アップという観点からは、極めて正しい選択であったと思われる。同様の理由で、現在実施されている2兆円規模の所得税、住民税の特別減税が打ち切られることになっている。つまり来年4月からは約7兆円、税負担が増える計算である。
一部の経営者やエコノミストは、この税負担の増を「増税」と決め付け、早くも「7兆円増税反対」のキャンペーンを繰り広げている。景気がやっと上向いてきたとはいえ、年度後半には失速する恐れがあり、増税はまかりならぬとの主張だ。彼らはそれが可能な根拠として、国債残高の国民貯蓄残高に対する割合を強調する。1996年度末の国債残高は約240兆円。これに対し、国民の貯蓄残高は1100兆円を超え、割合は約2割にすぎない。米国やドイツは3割程度に達しており、日本はまだまだ国債を発行できるとの論理である。
一般会計だけを見れば、その通りかもしれない。しかし、この種の議論は地方政府を含めて考える必要がある。同時期の地方債の残高は約140兆円になる見通しだ。
それだけではない。30兆円になんなんとする国鉄清算事業団の棚上げ債務をはじめ、特別会計の債務は約80億円と類推されている。合計すると約450兆円という巨額になる。中央、地方を合わせた財政の実情は目を覆いたくなる惨状なのだ。とても、財政に余裕がある、などと言えないことは明白だ。
歴史的に振り返れば、こうなった原因は80年代の「小さな政府」志向を引きずりすぎた点に求められると思う。当時、米国のレーガン大統領、イギリスのサッチャー首相が「小さな政府」を推進しており、中曽根康弘首相もこの路線を目指した。中曽根首相の場合は行革路線だった。行政ニーズは間違いなく増加する。しかし、高負担を望む納税者はいない。特に中曽根政権のスタート時「一般消費税」を掲げ、増税路線を選択した大平政権の失敗が大きくのしかかっていた。そこで中曽根政権は増税を避けて行革を推進する道を選んだ。つまりムダを省いて本質的なところで行政サービスを落とさず、税負担も上昇させないという方法である。
◇消費税率アップ不可避
以来、歴代政府は「小さな政府」を掲げ続けた。前川リポートも、宮沢政権下で作られた「生活大国五カ年計画」も、「小さな政府」を前提に構想されている。行革自体は成功したと言えないであろう。しかし、バブルの発生による税収の自然増で、なんとか財政を均衡させることができたのが実情である。問題はバブルがはじけてからの措置だ。この時点で日本経済を取り巻く環境は激変した。中でも消費者物価がほとんど上昇しないディスインフレ体質になったことが大きかった。税収は名目で決まり、ディスインフレまたはデフレ局面では、著しい歳入不足になることが経験的に証明されているからだ。
本来ならここで財政運営も大転換を図る必要があった。私たちは社説などで何度となくそう指摘してきたつもりである。しかし、政府、財政当局は発想を変えなかった。その結果は一般会計の姿だけはなんとか整え、見えにくい地方財政や特別会計に債務を押し付ける形で、どんどん財政を悪化させたといって間違いであるまい。
では、今どうすればいいのか。まず肝心なことは「小さな政府」が存立できなくなっている現実を直視することだ。「小さな政府」は口当たりがいい。米国第三代大統領のトーマス・ジェファーソンが「最小の行政こそ最良政治なり」と言っているように、いつの時代においても目標にすべきであろう。だが、それが可能か否かは冷静に見極めなければならない。高齢社会の負担を軽減できる抜本的な方法はない。逆に景気を良くしても、かつてのように税収の自然増は期待しにくくなっている。行政サービスに対するニーズが高まれば、負担が増えるのは仕方がないことなのだ。
少なくとも財政による当面の景気刺激だけを強調し、来年からの税負担増を凍結、先送りしようという議論には断固反対せざるを得ない。<論説室・子邦宏治記者>
96.04.24 毎日新聞朝刊
◇与党に“代償”求める声 法人税改革は難航必至
政府税制調査会(首相の諮問機関、会長・加藤寛千葉商科大学長)は23日総会を開き、審議を再開したが、当面の焦点は来年4月に引き上げが予定されている消費税率の上げ幅の確定。9月末までに結論を出さなければならない。このほか、法人税の見直し、土地税制の在り方などについても議論を進め、11月をめどに中期答申をまとめる予定。(川俣友宏)
▼▼消費税
1994年度から実施した所得税・住民税の減税の財源として、同年の消費税法改正で、税率を来年4月から5%(現行3%)に引き上げることが内定している。しかし同法では、社会保障の財源確保、行財政改革の進み具合、消費税の課税適正化、財政状況の四つの観点から検討し、引き上げ税率を変更する必要があると判断した場合は、今年9月末までに見直すことになっている。
現状では、公的介護保険の導入に向けた作業の遅れで社会保障に必要な財源の見通しが立たず、悪化している財政も改革に向けた道筋が見えないなど、税率見直しに際して検討すべき点の整理ができていない。このため、9月時点ではこの日の税調で大勢となった5%確保が着地点になりそうだ。
総選挙を意識して、連立与党の中には、消費税増税と引き換えに、所得税・住民税の2兆円の特別減税を来年度も継続することや、消費税増税の時期を来春から先延ばしすることを求める声が出ている。政治の側からの圧力によって、論議が紛糾する恐れがある。
▼▼法人税
中期答申の最大の柱が、法人税の見直し。日本の法人税の実効税率は49・98%で、英、米、仏などの先進諸国と比べて税率が高く、かねて経済界は負担軽減を求めている。このため税率を下げる代わりに、課税対象となる所得の範囲を広げて税収を確保する方向で見直しを進める方針だ。
しかし、課税ベースを広げる作業は難航しそうだ。さまざまな引当金を廃止する方法もあるが、企業側の反発が強い。既存産業優遇と言われる「租税特別措置」の見直しも反対が強いうえ、すべての租特を廃止しても税収増は3920億円(95年度予算ベース)で、法人税率の2、3%に過ぎない。会計原則の抜本的改革は、しっかりした政治的リーダーシップが確立していないと実現は難しい。
こうした事情から、減価償却の方式の変更など会計処理の技術上の見直しが中心になりそうで、中期答申で税率の大幅引き下げを打ち出すのは難しそうだ。
▼▼土地税制
今年は、来年度の固定資産税の評価替えの準備作業年。固定資産税は、94年度の評価替えで、それまで地価公示価格の2、3割だった土地評価額を7割に引き上げた。納税者の急激な負担増を避けるため軽減措置を講じているが、大幅な地価下落で評価額が地価公示価格を上回るケースが出ており、固定資産税の抜本的見直し論も浮上している。
地価税を含めた土地保有税の中で、固定資産税をどう性格付けるかが論議のポイントで、負担水準が適当か、地価税と合わせて二重課税になっているのではないか、などの点も話し合われそうだ。
▼▼酒税
欧州連合(EU)などが、蒸留酒のうち、しょうちゅうと、ウイスキーなど他の酒の間に税率格差があることを不公平だとして、世界貿易機関(WTO)に提訴している問題で、紛争処理委員会(パネル)の裁定が7月に出る見通し。裁定で格差是正を求められる可能性が強く、その場合は、年末の税制改正で、税率見直しが必要になる。
納税者番号制度の導入、金融商品の利子・配当への課税の適正化なども検討課題になる。
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