裏付けない成長神話が国債累増招く

 では、わが国はどうして国債という借金の山を累々と重ねてしまったのか。戦後、わが国で初めて赤字国債が発行されたのは65年度の補正予算にさかのぼる。東京オリンピック後の過剰生産不況を受けての税収不足が原因だった。その後は建設国債の発行が続いたものの、実質的マイナス成長に転落し、歳入欠陥に陥った75年度、赤字国債は再発行される。以降、15年間、わが国の財政は赤字国債依存体質を強め、70年代後半から80年代前半に一つのピ一クに達する。75年度に目安として設定した「国債依存度30%未満」も、この時期に簡単に突破してしまう。経済状態が比較的良好だったにもかかわらず赤字国債発行が増え続けたのは、公共事業などに投資すればその分、経済成長は加速するという裏付けのない過信が原因だったといえよう。赤字国債が発行されなかった時期もあるが、これは89年からの消費税導入とバブル経済による税収増のためで、根本的には財政状況は好転していない。

10年後の国債残高は現在の2倍にも

 大蔵省が今年1月、国会に提出した「財政の中期展望」では、今後の歳入不足をすべて赤字国債で賄う場合、名目で年率3.5%の成長が続いても、十年後の2006年度の国債残高は482兆円と96年度に比べ倍増する、という最悪のシナリオを提示している。

 また、2000年度に赤字国債発行数をゼロにしようとすれば、国の一般会計のうち国債費と地方交付税交付金を除く政策的経費を示す「一般歳出」を毎年度5%ずつカットする必要がある。ゼロ目標を2003年度にずらした場合でも、一般歳出を毎年度横ばいにしなければならない。いずれにしても苦しい財政事情には変わらないわけだ。

 「財政健全化への取り組みは、もやは一刻の猶予も許される状況ではない」と大蔵省自ら認めるまでもなく、財政再建への論議は待ったなしだ。しかし、これが単なる増税のための布石であってはならない。

 自社さ政権の相次ぐ経済失策による景気低迷、税収の伸び悩み、さらには大蔵省も重大な行政責任を負うべき住専(住宅金融専門会社)破たんや金融機関の巨額に上る不良債権問題などが重なり、わが国の借金財政は世界各国からも厳しい目を向けられている。

 今こそ各事業の徹底的な洗い直しや、自社さ政権で腰砕け状態にある行政改革や規制緩和の断行を含め、財政構造そのものにメスを入れる取り組みが迫られている。

 1996年度予算案で計上された国債発行額は約21兆円。この数値は、わが国が総額75五兆円の一般会計予算の3割近くを国債に依存する極めて深刻な赤字財政を意味している。

 政府は昨年11月、赤字国債依存体質から脱却した1990年度以来、財政再建の中期目標として掲げてきた「国債依存度」(一般会計の歳入に占める国債の比率ご五%未満)の目標達成を断念した。それもそのはず、この翌月には国債依存度28%の96年度予算案が発表されることになるからだ。

日本の財政は「極めて深刻な事態」

 このため、大蔵省が今年1月に発表した「財政改革を進めるに当たっての基本的考え方」には、これまで明記されていた具体的な目標数値が見当たらない。国の台所を預かる同省も、財政健全化へ「新たな目標とその実現に向けた方策について、幅広い議論を踏まえつつ、さらに検討していく」と記すので精いっぽいで、「極めて深刻な事態に立ち至ったと言わざるを得ない」と、自ら『お手上げ宣言』をしてしまっているほどだ。財政再建は、主要先進各国に共通する大きな政治的課題である。時の政権、ひいては国の行方を左右しかねない重要テーマだからだ。そう遠くない昔、わが国は、財政悪化に苦しむ諸外国と比べ、時として「優等生」的な立場にいたこともある。しかし、もはや大幅な経済成長など望むべくもなく、膨大な借金財政を抱き込んでしまった『ニッポン財政』は、果たして今でもモノがいえる立場にあるのだろうか。

 国債依存度と政府長期債務残高という財政健全度を測る二つの物差しを通して、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの各国と比較対照してみよう。国債依存度は、他国に比べて極めて高い。

 96年度で22%に上る日本の国債依存度はとび抜けて高い。ドイツを除く3カ国の依存度が減少しているのに対して、わが国は91年度から急激に『右上がり』に転換し、増加の一途をたどっているのが特徴的だ。

 わが国の抱える借金は国債ばかりではない。これに政府が複数年度にわたって負っている郵便貯金特別会計や交付税特別会計、国有林野事業特別会計をはじめとした借入金を合わせたものを長期政府債務という。

 この債務は、国内総生産(GDP)の規模と比較し、国民経済にとってどの程度の負担なのかを見ることで、国の財政状態を見極める一つの尺度になっている。

債務残高のGDP比は初の60%台

 96年度予算案に大量な国債発行を計上した結果、わが国の長期政府債務の残高は320兆円を突破する見込みだ。これはGDP比64.6%で、当初予算では初めて60%台を超えた。この数字は巨額の赤字財政に苦しむアメリカを抜き、五カ国の中で最悪になることは間違いない。

 財政悪化が国民生活に及ぼす影響は大きい。借金体質脱却をめぐる各国との対応の違いは、そのまま政治のリーダーシップの有無として語ることもできる。


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