臍帯血バンクLIGO
 Copyright Yoshihiro IDE (e-mail:y_ide@jsdi.or.jp) 最終更新日:1997/Aug/15

茨城県立こども病院小児科部長

医師 土田昌宏さん に聞く

県立こども病院にて
 茨城県内では、臍帯血移植の実績はありますか?

  妊婦の胎盤とへその緒の中にある臍帯血を白血病の治療に使うことは大変有効な治療法です。現在、県内では臍帯血移植の実例はありませんが、母親の臍帯血を採取して保存しているケースは7例あります。ちょうど、今日の午前中に血液にも1件採血しましたので、臍帯血の保存は8例となりました。

  臍帯血移植が骨髄移植と比べて優れている点は何ですか?

  臍帯血は大人の骨髄に比べて、俗な言い方をすれば、生きがいいというか、元気があるんです。
 つまり、増殖力が強い。骨髄移植では1000CC位必要なところ、臍帯血では100CC程度で済んでしまうのです。今まで、臍帯血の保管には多くの費用がかかるとされてきましたが、少ない量で治療効果が出ると言うことは費用の面でも白血病などの治療に光明が見いだされたわけです。
土田医師 また、白血球型(HTA)が少し異なっても移植できるという利点があります。HTAは6つの因子の組み合わせで出来ていますが、骨髄移植ではこの6つが全て会わないと拒否反応が起こり移植できません。しかし、臍帯血は、1つ、場合によっては2つ違っても移植できます。移植できる確率は、骨髄の場合が数十万分の一ですが、臍帯血では一桁違ってくると思われます。
 移植後に起きる拒否反応・植片対宿主病(GVHD)という症状も起こりにくいという利点もあります。
 臍帯血は、通常出産時に採取して、マイナス190度という超低温で保管しておきますので、患者さんが欲しいときにすぐその臍帯血を利用することが出来るのです。急性の白血病患者などに有効であり、現場の医師にとって、これは非常にありがたいことです。
 そして、なによりも提供者(ドナー)の負担が軽く、喜んで提供していただけることも大きな特徴です。

  臍帯血を使った治療はどのようにするのですか?

  治療自体は骨髄移植と同じです。患者さんの白血球を一度少なくして、代わりに臍帯血から採った造血幹細胞を点滴のよって患者に注入します。一時的に、白血球が減少しますので、細菌や病気に対しての抵抗力が低下してしまいます。そこで、無菌室での治療が必要になります。 

  臍帯血は一度に採血できる量が、100CCから200CCと少量のため、大人の白血病などの治療には向かないと言われていますが、いかがでしょうか?患者さんに2人以上の臍帯血を移植することも可能ですか?

  確かに、現状では50kg以下の患者さんへの治療が中心になっています。しかし、アメリカでは体重80kg以上の大人への移植も成功しているという事例が紹介されています。今後研究が進めば、臍帯血中の造血幹細胞を培養して、増やしてから移植できるようになればどんな患者さんへも移植できるようになると思います。ただ、2人以上の臍帯血をひとりの患者へ移植することは出来ません。
 

 お話を伺っていると、臍帯血移植は理想の治療法のように思えますが、欠点はないのですか?

  骨髄移植に比べても、欠点は全く見あたりません。ただ、ある程度の数の臍帯血を確保し、データベース化するための費用や患者さんの費用負担などが課題となるでしょう。

  費用はどの程度かかると予想されますか?

  現時点では、採取した臍帯血のHLAの検査費用が2万円程度。冷凍保存用の特殊バックや、凍害防止剤などが数千円、その他輸送費がかかります。マイナス190度で冷凍保存する設備やそのランニングコストが相当掛かると思われます。臍帯血の採血に当たる専門家や臍帯血移植のコーディネーターなどの人件費も必要になります。
 しかし、こうした費用は、骨髄移植の場合と比べても普及すればするほど割安になってきます。
 骨髄移植では、医療それ自体には保険が適用になりますが、提供者(ドナー)の入院費や保険料などの負担が100万から200万円掛かっているのが現実です。
 臍帯血移植に保険が適用できるようになれば、患者さんの負担は骨髄移植よりも軽くなる可能性があります。

  今後の臍帯血バンク実現の見通しはいかがでしょうか?

  越えなくてはならないいくつかの課題がありますが、臍帯血治療の有効性から考えると必ず乗り越えられると確信しています。
 更に今すぐにでも、地域の中心的な医療機関が臍帯血の採血、保存を始めることが必要だと思います。各県の一つの病院が100人分の臍帯血を集めたとすると、全国では5000人分の臍帯血が集まることになります。5000人分の臍帯血からは数百人の白血病患者を救うことが出来ます。公的な臍帯血バンクは是非とも必要ですが、まずは、地域の医療機関を結ぶ臍帯血ネットワークのようなものを構築する必要があります。
 保険適用や血液事業への位置づけなど多くのみなさんの声を厚生省や議会に届けていかなくてはならないと思います。

 井手県議は、公明茨城県本部の貫井徹政策局長(取手市議)、田山知賀子女性局長(水戸市議)とともに、県立こども病院の小児科部長土田昌宏医師から、臍帯血移植に関する治療の最前線でのお話をお聞きしました。
 当初30分のアポイントで始まったレクチャーだったが、土田先生の病気治療にかける情熱に圧倒され、1時間にも及ぶ懇談となりました。
 大変なお忙しさの中、お時間をいただいた土田先生に深く感謝申し上げます。

 懇談日:97年8月12日  懇談場所:県立こども病院内

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