住専処理予算で借金膨張の一途

 「財政再建に向けて、展望を持った予算とは言えない」・・・。自社さ連立政権下で成立した本年度予算について、当時編成に当たった大蔵省の篠沢前事務次官はこう言い切り、欠陥を認めた。自社さ政権の経済失政による税収の伸び悩みで、歳入と歳出のギャップである財政赤字が拡大し、当初予算としては7年ぶりに、返済の当てのない赤字国債を史上空前の約12兆円も発行するなど、「国の顔」といわれる予算において、財政の借金体質が鮮明になったからだ。しかも自社き政権は、ただでさえ財源不足の中で、住宅金融専門会社(住専)処理の穴埋めに、赤字国債(6800億円)と建設国債(50億円)を充て、借金を一段と膨らませる無謀な事態に追い込んだ。このため、国債発行の総額は21兆円にも上り、過去最高を記録。本年度末の国債残高は241兆円と、国税収入の五倍近くにも相当する見込みだ。これに、国鉄清算事業団の債務をはじめとする「隠れ借金」44兆円を加え、さらに地方自治体の借金136兆円を合わせると、国全体の借金は、何と421兆円の巨額に達する。

国民一人当たりでは340万円にもなり、国全体が「借金漬け」

 赤字国債を大量に発行すれば、金融市場の民間資金は政府に吸い上げられる。これによって長期金利が上昇し、民間の設備投資や住宅投資が抑制されるため、経済成長や生活向上に副作用をもたらす要因にもなる。なぜ、これほど財政が悪化してしまったのか。バブル経済の崩壊による長期の景気低迷が根っこにあるのは事実だが、こうした状況に対し、何ら有効策を講じてこなかった連立与党の経済矢政が相乗的に重なったことは明らかだ。まさに自社さ政権の「危機先送り」体質が招いた結末といえる。

硬直化したままの公共事業配分

 さらに、何よりも問題なのは、緊迫した財政事情にもかかわらず、政権、行政ともに危機意識が欠如し、財政改革の機運が極めて乏しいことだ。今、求められているのは、時代の変化に応じて、予算の出口である歳出を抜本的に洗い直し、壮大な無駄に切り込んでいく政治の実行力だ。しかし、本年度予算案が閣議決定された昨年12月25日の翌日付の全国紙の社説で「改革の方向が見えない予算案」(読売)、「構造改革に背を向けた政府予算案」(日経)などと批判が集中したことからも分かるように、自社さ政権下では「改革」への道筋が全く描けていない。

 事実、効率的配分が一層求められる公共事業でも、既得権益の維持をもくるむ与党族議員の抵抗の前に、ほとんど見直しは進まず、旧態依然とした事業別、省庁別配分比率くシェアごが続いている。復活折衝を通じて繰り広げられたのは、相も変わらぬ各省庁による予算の「分捕り合戦」だった。公共事業の中身を検証しても、高度経済成長期とほとんど変わらない土木事業中心となり、建設省と農水省が、同じ地域にほぼ並行して同じような道路を造成するなど、全く無駄な重複投資も多い。これに対し、今後の日本経済活性化の先導役となる情報通信、科学技術などへの予算配分はスズメの涙程度なのだ。

 結局、自社さ政権の下では、事業別シェアの変更幅は二年連続して減少し、コンマ以下の変化しかない。「94年度予算では細川政権が『シェアの見直し』を最重要課題として掲げ、わずかながら改善された」(95・12・26付毎日・社説)にもかかわらず、また後退である。自社さ政権が「改革逆行政権」といわれるゆえんがここにある。

 要するに、無駄な財政支出に切り込めないことが、財政危機の要因だ。歳出の見直しは、何よりも行政自身が徹底的なリストラ(事業の再構築)を行う「行政改革」の断行が先決である。特に、新進党が主張する中央省庁の統廃合に大ナタを振う根本的な改革が迫られているが、現連立政権はこれに何ら手を付けようとしていない。

 もはや予算編成の従来的手法は限界にきており、新進党が提唱するように、硬直化した一律シーリング(概算要求基準)方式による抑制手法を廃止し、政策のプライオリティー(優先順位)を明確にし、予算にメリハリをつけることが不可欠だ。

国民負担率も上昇…ツケ回し許されず

 一方、急速に進む高齢化の中で、社会保障の増大は避けられず、財政に対する国民負担は増すばかりだ。国民の税負担に社会保険料などを加えて、国民所得で割った「国民負担率」は、95年度見込みで28.8%、96年度では37.2%と上昇の一途。高齢化がピ一クを迎える2025年には、50%程度に達する可能性が高い。

 そうなれば、サラリーマンの給料の半分が税金と社会保険料に消えていくことになる。財政再建が遅れれば、国庫からの支出が先細りし、それだけ国民の負担が増していくことになるのだ。財政危機は、そのまま未成年や後世代へのツケの先送りを意味する。それだけに、財政の在り方をどう位置付けるか、総合的な検討が迫られている。その場しのぎや問題の先送りは許されず、中長期的な視点に立った構造改革こそ急務だ。


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