地方財政も火の車

 財政の借金体質は国家ばかりではない。地方財政も、年々悪化の一途をたどり、国と変わらぬ「火の車」状態にある。

 都道府県をはじめ市区町村の予算については、各自治体が独自に予算編成を行っているが、国でも全地方自治体の一年間の歳入、歳出の見込みを示す地方財政計画を作成している。これには、

 1996年度の地方財政計画は、前年度比3.4%増の85五兆2848億円に上り、国家予算をしのぐ。この現象は87年度から始まり、96年度比でも国を13.6%上回る規模に達している。

 国家予算と同様、地方においても歳出と歳入のギャップは相当の開きがあり、財源不足が深刻だ。ここでは特に地方債(公債)に焦点を絞って財政赤字度をチェックしてみよう。

 地方財政計画によると、長引く景気の低迷や産業構造などによる税収の伸び悩みから、96年度の地方の財源不足額は、8兆6200億円が見込まれる。この不足分は国からの地方交付税の増額や地方債などを充てなければならない。このうち、96年度における地方債の発行見込み額は、国の赤字国債に当たる減税補てん債1兆6000億円を含めて12兆9600億円。前年度比で17.7%の伸びだ。歳入に占める地方債発行の割合(地方債依存度)も、15.2%と過去最高値に達し、「地方財政の赤信号」といわれる15%を突破した。

 地方債の元金償還や利払い費用となる公債費も、前年度比15.2%増の8兆8600億円に上る見込み。公債費以外の歳出の伸びが2.1%にとどまっていることからすれば、いかに突出した数字であるかが分かる。

 このため、96年度末には、自治体の普通会計で負担する公営企業債を含む地方債の発行残高は120兆円を超え、さらに交付税特別会計借入金を含めた地方の借入金残高は、136兆円に達する見込みだ。国民一人当たりに換算すると約100万円弱の借金を抱え込んでいる計算になる。この額は同じく96年度末で241兆円に達する国の国債残高に比べれば実額では少ないものの、過去三年間の増加率が50%以上と国債の約25%増を大きく上回っており、悪化速度は国より深刻。このように地方も「危機的な財政状況」に陥っているわけだ。

茨城の県債発行残高:1兆627億円

 具体的に茨城県の予算を見てみると、1兆円あまりの県の予算に対して、県債発行額が1486億円となった。

 これは、予算に対する県債依存高で14.1%に達し、地財計画の15.2%より若干下回っているものの、その伸び率は19.2%と地財計画(13.0%)を大きく上回ってしまった。

 発行残高は、平成8年末の予測で、一般会計8749億円、特別会計が1878億であり、合計で1兆627億円となる。これは、県民一人当たり35万1600円となる計算である。

 茨城県も、急速に借金大県と成りつつあるといえよう。

歳出削減、税収増実行しにくい体質

 地方行政の足腰の弱さを象徴するものに「三割自治」という言葉がある。税収に占める地方税の割合が三割程度であることや、国から地方自治体に委任される事務が七割に上ることからそう呼ばれる。

 地方自治体の行政に必要な財源は、それぞれの地域社会で負担されることが望ましい。しかし、現実には、著しい地域格差が存在する。このため、国は地方交付税や補助金を通して均衡を図ることにしている。言い換えれば、各自治体の財政基盤の強さには関係なく、落ちこぼれが出ないよう国の指導や規制によって航行する「護送船団方式」をとっているのだ。

 地方の財政は、この護送船団方式が今も温存されていることから、自治体は「親離れ」ができにくく、財政運営の責任もあいまいになりがちで、「無駄遣いをしやすい仕組みになっている」という指摘もある。地方交付税や補助金は、国からあてがわれる性質のものであることから、ややもすれば必要以上に支出が膨らみ、歳出削減や税収増への自治体の自主的取り組みがなされにくいからだ。

 たしかに、財政の自主性が高まらなければ、住民に対し、行政サ一ビスと税負担の分かりやすい選択肢を示すこともできなければ、効率的な行政運営も進みにくい。

 事実「公明」地域からの改革推進委員会が4月8日に発表した「地方分権・事実、規制緩和に関する重点項目調査」によると、市町村が望む権限移譲の三位に「地方財政の強化」が挙げられた。地方分権の大前提として、いくら権限を与えられてもそれに見合う財源がないと分権は推進できないとの切実な訴えだ。地方の赤字財政も国民の借金であることに変わりはない。住民生活が魅力的であるためには、その自治体の財政も健全でなければならない。それだけに、交付税や補助金に依存する構造そのものの改革を含め、「右肩上がりの借金体質」に甘んじている地方財政に一刻も早くストップをかけ、健全財政へと転換する思い則った改革が望まれる。


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