Copyright Yoshihiro IDE (e-mail:y_ide@jsdi.or.jp) 最終更新日:1998/Jan/18 

介護保険制度についての私見

茨城県議会議員 井 手 よしひろ

 現在、200万人と言われる介護が必要な高齢者は、2025年には520万人に増加すると予想されています。こうした高齢化の波は、少子化や同居率の低下などの家族の姿の変化と同時進行でやってくるのです。医療が進み、平均寿命が延びることによって、介護の重度化や長期化も進んでいます。
 国民にとって介護の問題は、今後の大きな不安要因になっているといっても過言ではありません。
 こうした点を考えれば、措置を中心とする現行の介護システムは行き詰まっているといえます。
 少子高齢化時代の介護のあり方の第一の基本は、「お世話をする」「面倒を見る」介護から、「高齢者の自立支援」の介護への転換であり、その第二は、高齢者自らの意志に基ずく自立した質の高い生活実現支援のシステム作りであります。
 その基本の上に新たな介護システムの具体的イメージとして挙げられるものとしては以下のようなものがあります。
  1. 予防とリハビリテーションの重視
  2. 行政処分、いわゆる措置として「与えられる福祉」から、高齢者自身による「選択可能なシステム」への転換
  3. 必要なサービスを必要なときに受けられる在宅ケアの充実
  4. 家族や行政機関、サービス機関(民間機関)など、様々な主体が支え合う重層的システム
  5. 特別養護老人ホーム、老人健康施設、療養型病床群等の介護や高齢者医療基盤の充実
2000年4月から実施、保険料2500円

 一方、新たな公的介護保険制度の財源をどのようなものにするかが大きな課題となります。
 財源には大別して、介護を受ける側の国民が将来の介護を受けるため金銭を蓄える方式「社会保険方式」と、現在の福祉システムのような税金を介護に充てる「税法式」があります。
 現在、厚生省が導入を図ろうとしている制度は、「社会保険方式」として必要な経費の半分を国民や事業者に負担させ、半分を税金で負担する「税法式」の折衷案であるといえます。
 財源が安定的の確保でき、その使途が明確に限定できるという制度上の利点や、保険金を積むことによって、介護を権利として受けることができるマインドの問題から考えると「社会保険方式」がよりベターな方法であると考えられます。
 この「社会保険方式」を介護サービスの利用する側の視点から見ると、高齢者が自らの意思に基づいて、基本的に所得の多寡(たか)や家族形態にかかわりなくサービスを選択できる点にあります。また、保険料負担の見返りとしてのサービス受給となりますから、心理的抵抗感が少なく、気兼ねなくサービスを利用しやすいといえます。ただし、「権利としてのサービス受給」との意識が高まりますから、サービス供給体制を十分に整備しないと、大きな問題となります。
 一方、費用を負担する側の視点から見ると、負担とサービス受益の権利の対応関係が明確であり、所得に応じた負担でなく、サービスに見合った負担(応益負担)が可能となることがメリットとして挙げられます。
 しかし、低所得層にとっては、これが逆にデメリットになりますから、減免制度などの十分な配慮が不可欠です。

政府介護保険法の5つの問題点

 さて、今回、国会で成立した介護保険法の主な特徴は、

−−などを骨格としています。
 政府案の問題点を5つに整理してみたいと思います。
 その第1は、運営主体となる市区町村が現在、人口規模、財政基盤、サービス供給および事務処理能力において大きな格差があることです。安定した財政運営やサービスの地域間格差をなくすためには、予算規模等で格差のある自治体をどのように支援していくかということが挙げられます。
 市区町村が「保険者」である国民健康保険は現在、赤字が重なって財政的に破たん状態に陥っており、自治体の財政を圧迫しています。このため、「介護保険が第二の国保になるのでは」との懸念があります。
 国保の財政圧迫の主要因となっている保険料の未納分を、市区町村が一般会計から繰り入れて負担することと、事務処理手続きが増えることによる人件費の増大−−この二点が主として問題視されているわけです。
 政府案は、そうした批判の声を受け、市町村の財政を支援するために、財政安定化基金を都道府県に設置し、要介護認定などの経費の半分を負担することにしました。
 実際には、具体的な介護サービスの提供などの視点から考えても、公的介護の社会保障については市区町村が主体にならざるを得ないでしょう。この市区町村への支援の体制整備は大きな課題です。

 第2の問題は、在宅サービスの具体的内容、施設整備の目標値などがはっきりしていないことが挙げられます。政府案によると提供される在宅福祉サービスのメニューには次のようなものが挙げられています。

在宅福祉サービス
訪問介護(ホームヘルプサービス)ホームヘルパーが家庭を訪問して介護や家事の援助を行います
訪問入浴浴槽を積んだ入浴車で家庭を訪問して、入浴の介護を行います
訪問看護看護婦等が家庭を訪問して看護を行います
訪問・通所によるリハビリテーション理学療法士や作業療法士等が、家庭を訪問したり、あるいは施設において、リハビリテーションを行います
かかりつけ医の医学的管理等医師、歯科医師、薬剤師等が家庭を訪問し、療養上の管理や指導を行います
デイサービスデイサービスセンター等において、入浴、食事の提供、機能訓練等を行います
短期入所サービス(ショートステイ)介護を必要とする方を介護施設に短期間お預かりします
痴呆の要介護者を対象とするグループホームにおける介護痴呆のため介護を必要とする方々が10人前後で共同生活を営む住居(グループホーム)において介護を行います
有料老人ホーム等における介護有料老人ホーム等において提供されている介護なども介護保険の対象とします
福祉用具の貸与及びその購入費の支給車椅子やベッドなどの福祉用具について貸与を行うほか、貸与になじまないような特殊尿器などについて購入費の支給を行います
住宅改修費の支給手すりの取付や段差解消などの小規模な住宅改修について、その費用を支給します
居宅介護支援(ケアマネジメントサービス)介護を必要とする方の心身の状況、意向等を踏まえ、上記の福祉サービス、医療サービスの利用等に関し、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、これらが確実に提供されるよう介護サービス提供機関等との連絡調整などを行います

施設福祉サービス
特別養護老人ホームへの入所
老人保健施設への入所
療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟その他の介護体制が整った施設への入院

 こうした提供予定のサービスにあっても、たとえば「かかりつけ医の医学的管理サービス」は、その実験的試みでさえ全くなされていないのが実態です。
 2000年度までにどれだけのサービス体制が整備できるかが根本的問題となります。「保険あってサービスなし」とならないよう、サービスの質や量の具体策、目標値を明らかにすべきです。

 第3の本題点として、介護サービスを受ける際の「要介護判定」の難しさです。
 1997年1月から3月まで、厚生省の指導により全国60地域で試験的に要介護認定が行われました。読売新聞によると、福島市では、90人を対象に、国の作った基準を基にしたコンピューターによる第一次判定と、市の介護認定審査会による最終判定とを比較したところが、約20例で、二つの判定結果は食い違ってしまたことが報道されています。「例えば、本当の『寝たきり』なのか、実は『寝かせきり』なのかを客観的に判断するのは難しい。痴呆ちほうの度合いはなおさら難しい」と言われています。
 保険料を払っているだけに、認定結果に対する介護認定審査会への不服申し立てが殺到する恐れがあります。
 「要介護判定」をどのように行っていくか、乗り越えなくてはならない大きな課題です。

 第4には、厚生省案は家族介護の現金給付を認めていませんが、現実はあまりに多くの人が家族介護に携わり、重い負担を背負っています。現在茨城県では、寝たきりに高齢者の介護をする家庭に介護慰労金の形で、年間5万円の現金が給付されています。さらに、市町村がそれに上乗せした介護慰労金制度を実施しているのが現状です。
 家族介護の支援をより強化する意味でも、現金給付での給付を認めるべきだと思います。

 第5点目には、保険料額も月度2500円でどれだけのサービスが期待できるのか不明です。広く浅く保険料を負担し超高齢化時代に備えるのであれば、被保険者が40才以上であることも納得ができません。当初の発想にあった20才以上の国民皆負担がよりふさわしいと考えます。
 また低所得層、身体や精神に生涯がある人からも保険料を徴収しなくてはなりません。保険料を払えない人、未納者への具体的な対策を明示する必要があることは論を待ちません。

 超高齢社会に突入せざるを得ない事実は、既に国民のほとんどが真剣に受け止めています。必要なサービスを受けられるだけの負担の覚悟もできつつある状況にあると言ってもいいと思います。
 介護保険制度は、その実施に向けて、まさに見切り発車をした状況です。
 実施の細部については、これから厚生省が省令や通達で明示していくことになっています。国会などの論議で、国民にその全体像を示すのではなく、政府の都合でこの制度が自由に変質されてしまうことに最大の問題があるのかもしれません。

 総合的な医療と保険システムの改革問題とリンクさせながら、半世紀先を見据えた真剣な論議と監視の眼を持って、この介護保険制度を見守っていきたいと思います。


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