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 2003年6月12日、日本さい帯血バンクネットワークを介した2例のさい帯血移植が行われて、わが国における非血縁者間さい帯血移植は、1000例を突破しました。
 この日実施されたさい帯血移植の一つは、成田赤十字病院(千葉)で行われました。移植に用いられたさい帯血は6月4日に中国四国勝帯血バンクより供給されたもので、急性骨髄性白血病の55歳の女性に移植されました。もう1例は虎の門病院(東京)で、患者さんは54歳になる骨髄異形成症候群の男性で、5月29日に兵庫さい帯血バンクから供給されたさい帯血により、さい帯血移植が行われました。(さい帯血バンクNOW第12号より)

 この2例とも高齢者に移植された事例で、さい帯血移植の黎明期には、乳幼児への治療法というイメージが強かったさい帯血移植ですが、現在では、8割近くが成人に行われていることを象徴的に示す結果となりました。
 特に最近、さい帯血移植数が急激に伸び、骨髄移植の移植数と並ぶようになってきました。1000例突破を記念して2003年7月27日に開催された年次報告会2003では、加藤剛二事業運営委員が、「他の治療法に先立ってさい帯血移植を試みる例が多くなってきた」と報告したことが、裏付けられる結果となっています。
 順調な伸びを示しているさい帯血移植ですが、いくつかの課題があります。

複数さい帯血の同時移植

 その第一は、複数さい帯血の同時移植です。さい帯血は、移植できる細胞数に限りがあります。出来るだけ造血幹細胞の数が多いさい帯血を保管しようと各バンクでは、努力していますが、どうしても限界があります。体重が重い患者にもさい帯血移植を実施するためには、複数のさい帯血を同時に移植する必要性があります。
 既に、日本さい帯血バンクネットワークでは、2002年5月に国内4施設での複数さい帯血同時移植が承認され、今年3月と4月に実際に実施されました。今後も、複数さい帯血同時移植の患者が待機しており、症例の蓄積と有効性・安全性の解析が続けられていきます。

ミニ移植の研究

 第二は、ミニ移植の研究です。さい帯血移植では、通常、大量の抗がん剤を使った後に移植を行います。しかし、最近の研究で、がん細胞を殺す働きは、抗がん剤より、リンパ球の方が大きいことが分かってきました。このため、リンパ球の免疫作用に主眼を置き、抗がん剤を通常の移植より少量しか使わない治療法が、「ミニ移植」と呼ばれます。白血病だけでなく、固形がん、特に腎がんに効果があるとされています。抗がん剤の副作用が減るために、高齢者でも移植が可能となります。

バンクの財政基盤の確立

 また、さい帯血バンクの財政基盤の脆弱性は深刻な問題です。
 日本さいたい帯血バンクネットワーク会長の斉藤英彦氏は「現在の実施休制の欠陥が明らかにされました。特に財政的基盤が弱く、各地域バンクの莫大な赤字の上に移植医療が成り立っているという事実です。このままでは間もなく破産して、保存を続けることが不可能となる状況です。骨髄移植についても同じく厳しい状況であり、骨髄移植推進財団は基金の取り崩しという非常事態に至っています。造血細胞移植の有用性は十分に認知されており、問題はコストの負担をとのようにするかであります。出所は医療保険、国庫補助金、寄付金、患者負担金以外にはないわけで、患者負担金はできるだけゼロにしたいのは当然です。医療保険の適用や国庫補助金の増額は今まで努力してきましたが、頭打ちの状態です。この数年は骨髄とさい帯血で予算の取り合いをしているような情けない状況で根本的解決にはならないと思います。現在の厳しい医療経済状況の中で最も説得力のある方法は、『移植をしたはうが、しないよりは総医療費の節約になる』ことを具体的な客観的データで示すことでしょう。そのうえ移植を受けて社会復帰する方々は若年者が多いので、社会に対する貢献は計り知れないほどであります。新年のプロジェクトの一つとして費用対効果のデータを学会で出して雑誌に載せることを目指したいと思います」と平成15年の年頭所感で述べています。(さい帯血バンクNow第9号)。

 こうした現状に対して、私ども政治に関わるものとしては、2つの提案をしています。
 その1点目は、いつでも、だれでも安全に移植できる制度を国の責任で整備することを明確にした「造血幹細胞移植推進法」(仮称)の制定です。
 また、2点目は、さい帯血や骨髄液、それ自体にも医療材料として医療保険を適用し、保険点数をつけるよう保険制度を改正することです。これが実現すれば採取から検査、移植のすべての段階で保険が適用されることになり、さい帯血バンクや骨髄バンクの財政基盤の充実も進むと思います。

さい帯血バンクと骨髄バンクの連携

 4点目の課題として、さい帯血バンクと骨髄バンクとの連携強化が上げられます。
 骨髄バンクを介した骨髄移植は減少傾向にあります。14年度は739例でしたが、13年度の749例をはじめて下回りました。対前年同月比での減少傾向は15年度に入っても続いています。
 さい帯血バンクと骨髄バンクを介した移植は、それぞれに利点と欠点があります。骨髄移植に比べて様々なアドバンテージがあるさい帯血移植ですが、疾患によっては骨髄移植の方が移植成績が安定しているところもあって、骨髄バンクの存在は欠かせません。造血幹細胞移植が必要な患者さんにとって、骨髄バンクもさい帯血バンクもともに大切な社会システムです。
 骨髄バンクとさい帯血バンクの利用者である患者さんは同様な疾患の方々であり、移植を行う医療機関も同じです。
 しかし、バンク事業そのものは全く異質な業務の流れを持っています。対象となるドナーも採取方法も提供に至る流れも、業務に携わる人の業務内容も全く異なります。
 さい帯血バンクネットワーク発足から3年以上経過した平成15年4月、ようやく「骨髄バンク・さい帯血バンク共同事業協議会」が設置され、両者の連携を図る議論がスタートしました。議題の主なものは「検索システムの一本化」「患者相談窓口」「国際協力」などです。
 両バンクの患者さんのために有機的な連携がとれるよう、一層の努力が求められています。


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