今年の日本磁気共鳴医学会は、都内での開催であることと教育的プログラムを数多く盛り込んだ内容であるためか、多数の一般参加者もあり、開催期間を通じて盛況でした。一般演題においては、放射線科医、放射線技師などのMR従事者以外にも、脳外科医や精神科医からの発表、医学以外では分子レベルでのNMR解析や、ESR(電子スピン共鳴)によるフリーラジカル解析など、バラエティに富んでました。今年の発表で目立ったのは拡散強調画像(DWI:diffusion weighted imaging)と還流画像(PWI:perfusion weighted imaging)の臨床応用、拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging)による脳錐体路の3次元描出や、SENSEやtrueFISPなどの高速撮影法、ファンクショナルMRI(fMRI)による脳機能解析、プロトンMRSなど新技術に関する発表でした。特に興味のあったテーマについて、以下にまとめておきます。
 
 

■拡散強調画像、拡散テンソル画像

 拡散強調画像は超急性期の虚血性脳疾患のみならず、脳腫瘍や脱髄性疾患、炎症などの様々な病態に対しての応用が試みられ、その有用性に関する発表が数多くありました。細胞密度と拡散の低下の相関からgliomaの悪性度を判定、脱髄性疾患と炎症性疾患の鑑別、くも膜嚢胞と類上皮腫との鑑別など拡散強調画像の用途は広く、何らかの頭蓋内病変が指摘される場合はルーチン的に拡散強調シーケンスを追加すべき、と思いました。画質はあまり良くないのですが、脊髄分野(例えば脊髄損傷への応用など)での拡散強調画像の発表もありました。
 
 拡散テンソル画像は異方性拡散を計算により画像化したもので、これを3D解析すると皮質脊髄路などの白質路を描画できます(DTI tractgraphy)。梗塞部位と白質路との詳細な比較が可能で、予後の判定に有用だそうです(例えば、梗塞部位の大きさのみならず、虚血領域が白質路を含んでいるかどうか分かる)。また、錐体路近傍脳腫瘍と白質路との関係を術前にあらかじめ知ることができます。
 
 

■プロトンMRS

 gliomaの悪性度判定にプロトンMRSを応用する発表がいくつかありました。悪性度の高いgliomaでは、コリンの上昇(細胞膜代謝の増加)、NAA(N-acetylaspartate)の高度低下、lactate(tumorのhypoxiaの反映)やlipid(glioblastomaのnecrose)の出現などの特徴があるそうです。手術適応の可否に応用できるのではないか、との事でした。
 
 

■ファンクショナルMRI(fMRI)

 賦活化された領域で脳血流が増加し、血中の酸素飽和度が変化することを利用して、脳機能野を同定する検査法で、主に運動野や言語野と腫瘍との関連を術前に評価し、障害を起こさずに切除できる範囲を決定するのに利用されますが、各施設間で測定法が微妙に異なるようで、スタンダードなプロトコルを学会として示して頂ければ良いのですが。
 
 

■SENSE(ASSET)

 多数のコイルを同時に使用して検査の短時間化以外にも、コイルの多数配置により磁場不均一を解消できるため、腹部など撮像領域の広い部位でも従来の方法よりも高画質を得るというメリットがあるようです。機器展示会場では、東芝やメドラッドのブースでSENSE用の頭頚部マルチチャンネルコイルが置いてありました。通常のTOFMRAが2分程度で施行できて、画質もそれなりに良好で、ルーチン目的なら充分堪えられるようです。
 

■trueFISP(FIESTA,balanced FFE)

 これは最近開発された、極めて短いTR/TEで撮影できるGRE型シーケンスで、シングルショットで(臨床的)T2強調画像を撮影可能で、組織の辺縁がシャープで、血管が高信号に描出される特徴があります。例えば息止め下で腹部領域のMRAを撮影したり、脳槽内の血管と脳神経との構造を精細に描出するなど、様々な応用が期待されます。
 

■PROPELLER法

 bladeと呼ばれる単位収集列が、kspace内を回転しながらデータ収集を行う、GE社の最新技術で、脳動脈瘤クリップ装着者や義歯などの磁化率アーチファクトをかなりのレベルに低減でき、画像的歪みのない脳底部の拡散強調画像を得ることもできます。また、体動補正にもかなりの効果があるようです。TEがエコートレイン数により変化するためT2強調画像の収集以外には使えないことと、通常のデータ収集法よりも時間がかかるのが欠点のようです。