MR基礎の基礎〜Q&A形式による問答集

                                          written by fumipon,2002




■MRの原理について
 

Q1.MRとは何ですか?

 MRとは"magnetic resonance"の略称で、この原理を応用した画像撮影がMRI(MR imaging)です。

Q2.MRとCTの違いを教えてください。

 CTもMRと同様、断層撮影画像を得る検査法ですが、画像収集の原理が異なります。CTでは”X線”が用いられますが、MRの場合は強力な磁石による外部磁場と電磁波を組み合わせて画像を収集します。

Q3.MR画像は何を反映しているのですか?

 水素原子核(プロトン)の分布を反映してます。原理的には様々な原子核が対象となりますが、医用画像目的としては、人体の構成成分としてもっとも多いのは水(全体の約60%)です(水分子は酸素原子に水素原子が2個結合)。また脂肪組織や蛋白質などの高分子化合物も、水素原子が多く含んでいるため、診断に適しています。

Q4.それではCTは、どのようにして画像を得るのでしょうか?

 MRと同様の断層撮影装置として広く普及しているCTでは「X線吸収の差」を画像化してます。例えばX線吸収の大きい骨や血腫は高信号に(白く)表示され、X線吸収が少ない水や空気は低信号に(黒く)表示されます。
 
 
 

■検査前チェックについて
 

Q5.MR検査前チェックを必ず実施するのはなぜですか?

 MRは放射線被曝がないため、人体に安全であるとの認識がありますが、一部の患者さんにとってはかえって危険な検査でもあります。MR装置では自然界での地磁場(0.5ガウス)のおよそ数千倍から3万倍に至る高磁場を使用し、また画像収集時に装置から発生する電磁波の出力も高いため、金属や精密電子部品など磁気の影響を受けやすいものは、検査中に動いたり誤動作する可能性があります。

Q6.具体的にどのような患者さんがMR検査をできないのでしょうか。

 特に注意するべき装着物として、心臓の(埋め込み型)ペースメーカーが挙げられます。ペースメーカーのような精密電子機器は、MR装置のような高磁場の環境下に置くと、電磁誘導による誘導起電力が回路に発生して、装置の誤動作、故障を招きます。ペースメーカーは重度の不整脈患者さんの心臓拍動を一定に保つ装置なので、これが誤動作することは患者さんの生命に関わりますし、実際に海外での死亡事故も報告されています。

Q7.検査室内に金属製品、磁気カードを持ちこめない理由は?

 前述しましたように、MR装置内は高磁場ですから、磁石に引き付けられやすい鉄やニッケルなどの金属(強磁性体といいます)は、MRの磁石に強力に引き寄せられるため、金属物が飛んで患者さんや装置に当たる危険があります。吸着力はその金属の重量に比例しますので、酸素ボンベのように重いものほど、より重大な危険を伴います(最近アメリカで、酸素ボンベによる死亡事故が発生しました)。
 小さい金属製品であっても、義歯、ヘアピン、ピアスやボタンが検査部位の近くにあると、画像が劣化して検査の妨げとなります。いずれにせよ、原則的には「あらゆる金属製品をMR検査室に持ち込まない」と認識する必要があります。
 テレホンカードやクレジットカードに書かれている情報は、磁性体塗料による磁気信号ですから、MRの強い磁場に晒されると情報がすべて消えてしまう可能性があります。

Q8.指輪がどうしても外れないのですが?

 強く固定され、検査中に外れる可能性がないのであれば、そのまま検査を受けて構いません。 

Q9.人工関節、人工弁などの体内留置器具(ステント)はどうでしょうか?

 整形外科で使用される人工関節のほとんどは、骨組織に固定されているため、MR検査に支障はありませんが、人工弁や脳動脈瘤クリップの一部はMR検査に不適な強磁性体が使用されているケースがまれにあるため、手術の内容や使用された器具について、検査前に入念なチェックをする必要があります。患者さんによっては自分が受けた手術内容についての理解が乏しい場合もあるため、その家族への問診、手術を行った医療機関への問い合わせ、必要に応じて胸部の単純写真が撮影されます。

Q10.それでも判断に苦慮する場合はどうすればいいでしょうか?

 主治医もしくはMR担当の放射線技師に遠慮なくお問い合わせください。
 
 
 

■MRAについて
 

Q11.MRAとは何ですか?

 MRAとは"MR angiography"の略称で「MR血管撮影」を意味します。昔は血管の検査といえば大腿動脈にカテーテルを入れたり、頚動脈に直接針を刺して動脈内に造影剤を流しながらX線写真を撮影する以外は、血管画像を得る方法がなかったのですが、MRの出現により、体内の血流を無侵襲で(人体に危害や苦痛を与えない)検査する事が可能となりました。画質や解像度の点において、いまだ血管撮影には及びませんが、脳ドックでのスクリーニングや、外来での脳動脈瘤の有無、主幹動脈閉塞・狭窄の検査に広く用いられています。

Q12.MRAの原理を教えてください。

 難しい説明は省略しますが、MRAのほとんどは"inflow効果"という原理を利用してます。これは血管内の「流れ」を画像化するもので、速い血流ほどより高信号に(白く)映し出されたデータを、画像処理によって重ねあわせて血管像を作成します。閉塞した血管や脳動脈瘤は(正常血管と比較して)無信号または高信号に表示されますが、MRAはその性質上、疑陽性(本当は正常なのに、異常に見える事)となる確率が高く、正確な診断のためには、3DCTAや血管撮影での精密検査が必要となります。

Q13.3DCTAとの違いは何ですか?

 3DCTAは造影剤を静脈注入しながら連続的にCT撮影を行う検査で、MRAよりも高画質で高精細な立体像を得る事ができます。ただし、静脈に針を刺すことや、ヨード造影剤による副作用というリスクを伴います。そのため一般的には、MRAで異常所見が見られた患者さんに対する精密検査や、腫瘍など血管以外の情報が欲しい場合の検査、MR検査のできない患者さんに対するMRAの代替として施行されます。

Q14.MRAでも造影剤は必要ですか?

 基本的には不要ですが、細かい血管や末梢部位の観察が必要な場合は、MR用造影剤を静脈注射してから検査する事があります。
 
 
 

■MR用造影剤について
 

Q15.MRで使われる造影剤は何ですか?

 MR検査においては、ガドリニウム(Gd)という重金属(磁性体)をイオンキレート化(無毒化)した物質の水溶液(オムニスキャン、が広く利用されています。静脈注入され人体内に分布した造影剤は、組織の磁化作用に影響を与え、T1強調画像で高信号となります。

Q16.MR用造影剤の投与目的は?

 通常のMRよりも強いコントラストの画像を必要とする場合や、脳腫瘍のように造影剤を取り込み、高信号に描出される病変が疑われた場合、他断面からの観察が必要な場合や、造影剤取り込み時間の差を利用とした病変検出(ダイナミック造影)、血管の描出(造影剤併用MRA)、脳炎や髄膜炎の診断、などの目的で用いられます。
 

Q17.MR造影剤投与時の注意点は?

 X線検査で使われるヨード造影剤と比較すると格段に少ないですが、副作用はあります。特に「気管支喘息の既往」がある患者さんは、ショックや呼吸停止など重篤な副作用を起こす可能性が(そうでない人と比較して)高いため、慎重に投与しなければいけません。重篤なアナフィラキシー様症状の発現頻度は20万回〜45万回に1件(0.00022-0.0005%)とする報告があります。

Q18.検査前は「食止め」にしなければいけませんか?
 
 「食止め」の必要はありませんが、食後間もないタイミングでの造影剤投与は(緊急のケースを除けば)避けるほうが無難です。
 
 

■MR検査の特徴
 

Q19.MRの長所と短所を教えてください。

 長所としては、放射線被曝がない、任意の断面像が得られること、シーケンスやパラメータの設定により様々な情報を引き出せる、MRAなど従来の侵襲的検査の代替としての利用が可能、CTでは描出が難しい部位(脊髄など骨に囲まれた部位)でも明瞭な画像が得られる、など多様な利点がある一方で、
 短所としては、入念な検査前準備が必要なこと、患者さんの既往や状態によって検査が不可能な事、検査中の騒音、意識状態・全身状態が良くない患者さんには不向きな事、モニタリング装置や血圧計、点滴棒は専用のものを利用しなければいけないこと、撮影時間が比較的長時間となる事、患者さんや臓器の「動き」に弱い事、骨や空気・急性期の出血は描出が難しい事、などが挙げられます。

Q20.脳外科救急でMRが第1選択となりにくい理由はなんですか?

 Q19でも触れましたが、急性期の脳出血は(MRの原理的に)無信号となり描出されません(注:特殊な撮影法を用いれば、描出されるという報告はある)。また意識状態の悪い患者さんをMR検査室の中に置き去りにする危険性、救急で搬送された患者さんの正確な既往暦を把握する事の難しさから、現在でも脳外科救急の第1選択はCTが主流となっています。ただし、急性期脳血管閉塞疾患については、MRが第1選択となっている施設も(少数ですが)あります。

Q21.「T1強調画像」「T2強調画像」ってなんですか?

 Tとは"time"の略で、T1・T2とは組織における固有値(時定数)としてあらかじめ決められた値です。このうちT1の差を強調するようなシーケンスで得た画像をT1強調画像、T2の差を強調したものがT2強調画像となります。一般的にT1強調画像は撮影対象の解剖学的構造を反映し(CT画像に類似)、T2強調画像は病理学的変化を反映すると言われてます。

Q22.CT撮影した後に、同部位のMR検査が追加される理由は?

 MR検査で得られる画像は、CTと比べてコントラスト分解能に優れていて、またCTでは捉え切れない微少な変化を検出する事があります。脳病変においては、くも膜下出血、脳内出血など入院や緊急処置を要する病変をCTで除外診断した上で、引き続き(または後日)に、CTでは見つからなかった病変の検出目的、もしくはCT所見の追認、新たな情報を得るための精密検査の目的で追加オーダーされる事が、少なからずあります。
 
 

■その他の注意事項
 

Q23.閉所恐怖症の患者さんのMR検査はどうすればよいでしょうか?

 だいたい30人に1人くらいの割合で、閉所恐怖症の患者さんが存在するといわれています。自分で閉所恐怖症の自覚が無くても、MR検査室内でセッティング中に閉所恐怖症であることに気づくというケースも少なくありません。そのため、検査前の問診で「閉所恐怖症ではない」と患者さん本人が答えていたとしても、実際の検査前、もしくは検査中に症状が起こり、パニック状態に陥る可能性もあるため、いかなる患者さんであっても必ず、検査開始時にこれから行う検査内容、検査予定時間について充分に説明する事が重要です。閉所恐怖の程度が軽い場合は、これだけで検査が可能となるケースも多いです。

Q24.それでもダメな患者さんはどうすればいいでしょうか?

 一旦患者さんをガントリ外(もしくは検査室外)に退避させます。看護婦さん、オーダーを出した主治医に相談し、どうしても検査が必要であれば、鎮静剤を投与して検査する事もあります。その場合は、検査終了時まで注意深く患者さんのバイタルを観察する必要があります。