地、固まる前の時雨 by oneeven
ブンッ。
エルクゥの手から、「それら」が放たれた。
一気に千鶴と梓の方へ向かう。
反射的に二人は横に避け・・・ようとして、動きを止めた。
「それ」が途中でぴたりと停止した為に。
「殺した後まで冒涜しやがって・・・」
「彼」が呟く。「彼」の片手が、横に伸びていた。
開かれていたその手を急に握る。
同時に、「それら」が「霞」に包まれた。
「ぐっ・・・ま、まだ死んだとは・・・か、限らねぇがよ!」
何故か突然苦鳴をあげながら、「彼」は叫んだ。
同時に、伸ばした手を後ろに振る。
「それ」らは更に後ろに突進し、突然停止するや、
とん。
とん。
穏やかに地面に落ちた。
「ふぅ、ふぅ・・・ま、また後始末が大変な事をしでかしやがって・・・」
苦しみの中に、どこか楽し気な表情を浮かべながら、「彼」は呟いた。
「おい、どうしたんだ?大丈夫か?う・・・す、姿が?!」
裕也が叫ぶ。
一瞬、「彼」の姿が薄らいだ為に。
「なに、ちょっと『しっぺ返し』が来てるだけだ・・・もう収まった。」
もう「ちらつき」が起こりそうな気配はないらしく、「彼」が答える。
そして、
「嬉しいぜ」
言った。
「全然手加減しなくていいんだからな」
「俺をやった時、手加減してたのか?」
一応安心し、冗談混じりに祐也が言う。
「もっちろん。格闘技使ったろ。こういう事はしないで。」
言うのと、エルクゥが風と化して突っ込んでくるのが同時だった。
ベチン。
重い肉が平面にはたきつけられる音がした。
エルクゥの体前面が、球体を抱え込んだようにひしゃげている。
球体の中心には、いつのまにか掌(しょう)があった。
同時にエルクゥの頭を霞が包む。
「原理はあんまり考えてないんだけど、一応非物質バリアだ。
有り難い事に『しっぺ返し』が少なくて、意外に使えるぜ。」
「彼」は裕也に答えた後、千鶴達に向かって、
「・・・君ら、『ひと』に戻っとくんだ。当面は大丈夫だから、体力を
温存しておけ。」
言った。
そして、
「さて。」
呟いた。
声から再び呑気さが消える。
「異星の生体兵器純粋版、どのくらい凄いか見せてもらうぞ。」
「せいたいへいき?ほんとかね。
まあ、大丈夫だろ?あんた、そんなに力があるんだから」
耕一が言う。祐也もうなずいた。
エルクゥの「ひしゃげ」は、体全体に広がっていた。
「いや。・・・ゆーちゃんよ、おまはん、あのおまわりさん達襲った時、跳躍した後
に、連中のぴったり後ろに飛び降りたろう?」
「ああ。・・・どこの言葉だそれは。」
「ほっとけ。・・・余裕出てきたじゃねえか。
んで、俺に言わせりゃ、エルクゥのあのもの凄い跳躍力じゃあ
普通の奴にはあんなにぴったし思い通りの場所に着地する
事なんか絶対できない。
別んとこに落っこっちまう。」
「?」
「コントロールできないんだよ、着地地点を。わからんか?跳躍っ
てのは力学の範疇内。飛び跳ねる力が強けりゃ強い程、逆に、思
うところに着地するのは難しいんだ。全くの初心者なら絶対無理。
ゆーちゃんは鬼の力を手に入れて間もないんだろ?それにプラスして
極めつけは、跳んだ時の軌跡が放物線状じゃなかったって事だな。
多分・・・無意識にPKを使ったんだと思う。」
「ぴーけーって・・・前に言ってた念力か?」
裕也は尋ねた。
「ああ。それに雨月山伝説でも、鬼は不思議な術を使った、
ってあるだろ。あれは、鬼・・・いや、エルクゥの武器もあったろうが、
超能力の類もあったんじゃないかと思う。」
「・・・・・・」
「俺はふつーの物理法則内でなら何とか対処する自信もあるが、
超常能力に関しては全然自信がない。少しは手伝えるかも知れんが。
だから、最終的には、おまえらの肩にかかってるんだ。」
「俺達って・・・何で俺達が?」
耕一が言う。
「つまり俺達は念力が使えるって訳か。」
後をついで、祐也が言った。
「そう。PKに限らんけどな。」
「ふむ・・・ところで日本人なら横文字使わずに日本語
使えよ」
「へーい。・・・ありがとよ、ほぐしてくれて。来るぞ!」
瞬間、「彼」は両手を横にバッと広げた。
同時に、「毬」になっていた筈のエルクゥが「彼」の前に出現する。
ブンッ。
すぱあん。
エルクゥの爪が「彼」を襲い、「彼」の手が、先程と同様にそれを逸らした。
「テレポート使いやがった・・・」
少し嬉しそうな顔で呟く。
ブンッ、ブンッ。
「少し・・・」
襲い来るエルクゥの「刃」をすれすれで躱し続けながら、
「遊ばせてもらうか。」
言うと「彼」は、突然エルクゥの腕の動きにぴったり同調して
体を移動させ、
「今度は・・・」
言いざまに体をばっ・・・と開いた。
ぶんっ。
ズンッ。
「どうだ?」
途端、突然エルクゥの体が回転するや、脳天から地面に激突した。
「彼」の手は、エルクゥの手首に絡まっている。
「成る程、こう投げればいい訳か。・・・ウン!」
呟くと、含み気合いと共に、「彼」はエルクゥの手首を、
くんっ!
と捻った。
びくんっ!!
「グオオォォ!!」
それに同期して、エルクゥが跳ね起きる。・・・痛みに。
「オオォォォォ・・・オオオオオオ!!!」
ヒュン・・・
ぱん。
苦しみながらのエルクゥの一撃は、乾いた音と共に「彼」の手に
停止させられた。
ひねりつぶそうとしてか、エルクゥは腕の筋肉をうねらせ、
「グオオオオオオォォォォォ!!」
咆哮する。
「彼」は無表情に相手を見続けた。
暫くそのままの状態を続けた後、「彼」はふと口の端を上げて笑うと、
「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
突然、目の前の鬼が発したより更に大きな音量で叫んだ。
「ひっ」
「きゃっ」
「おっ」
びくっ。
その場の意識がある者全て---音を発した当人を除く---が、一瞬驚いて
僅かに身を引く。
そこに、
べきん。
「オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!」
嫌な音がし、続けて再びエルクゥの・・・今度は明らかな悲鳴が
上がった。
骨まで握り潰され、エルクゥの腕の、「彼」の手が掴んでいる部分
より先が、だらりと下がる。
反射的に体を引くエルクゥ。腕が「伸び」た。
「オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!」
再びエルクゥの悲鳴が上がった。
すると、
「む・・・」
突然「彼」が眉をひそめるや、手から手を離し、それをエルクゥに叩き込んだ。
悲鳴を途絶えさせて崩れ落ちるエルクゥを尻目に、傍らの何も無い「空(くう)」
を見つめる。
「まだ・・・」
言いながら、再び構えを取る。
「来るのか?!」
その言葉と同時に、更に数体のエルクゥが、一度に出現した。
「くっ・・・」
どおおおおぉぉぉぉんん・・・。
「彼」がうめくと同時に姿が消え、再び衝撃波が走り・・・いや、走り続けた。
瞬く間に数体のエルクゥが倒れる。
しかし、別の数体はそれをかいくぐり、「彼」の後ろの者達へと迫った。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
梓、千鶴が瞬時に鬼化する。
が、
ベチンッ!
ベチンッ!
エルクゥ達は、先程同様に、対戦相手の前数十センチのところの
見えない壁のような物にぶち当たった。
「ふぅ・・・結構頼りになる『気休め』だ」
「そうだな・・・!」
耕一の呟きに同意しかけ、裕也ははっと後ろ---貴之の方を見た。
「たかゆきっ!!」
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
ぱんっ・・・。
振り返った裕也が見たものは、テレポートで「壁」のこちら側に出現したエルクゥ
の腕の一振りに散華した、貴之の頭部だった。
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
敵と同種の声を上げると、裕也は瞬時に鬼化し、相手に襲い掛かった。
テレポートしたエルクゥは、一体ではなかった。
「梓!サポートお願い!!」
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
千鶴が梓に叫び、梓は雄叫びで答える。
「ふっっ!!」
ザクッ、ザクッ、ザクッ。
ざっ。「おおおおおっっ!!!
どむっ。
ぶんっ。ぱあん。
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
千鶴は連続で爪を奮い、すぐに退いた。
出来た僅かの隙に梓が蹴り込み、それを襲ったエルクゥの攻撃
は、即座に再び踏み込んだ千鶴が逸らす。
意外に手強い相手達に、エルクゥが怒りの声を上げた。
それからは、
ヒュン!
すぱあん。
どむっ。ざくっ。
千鶴が逸らし、梓が攻撃するというパターンが続いた。
「す・・・凄い・・・」
それを見て耕一が呟く。
「千鶴さんの動き・・・『おっさん』そっくりだ。」
「しくしく・・・」
(耕一の「おっさん」の言に,どこぞからかすかな音が聞こえた.)
「ちょっと見ただけで、もう覚えたのか・・・?それに、梓も凄い。
あいつ、あんなに凄まじい蹴りを出せるのか・・・」
楓と初音をかばって覆い被さった耕一は、呆然とした。
「くそっ・・・それに対して、俺にできるのは、これくらいか・・・」
自嘲気味に呟く。
「まあ、何もできないよりゃマシだな。」
「お、お兄ちゃん・・・」
「耕一さん・・・」
初音と楓が、耕一を二重に気遣って呟く。
「だ、大丈夫だよ。あの『おっさん』や裕也『おじさん』や、千鶴さん
や梓が何とかしてくれる。きっと!
・・・うわぁっ!」
「きゃあぁっ!!」
どんっ。
「だから誰がおっさんだっての。」
「え?」
ズンッ。
突然耕一の側にエルクゥが風を巻いて出現---テレポート---し、それを、
高速で移動してきた「彼」が仕留めた。何故か今度は、衝撃波はない。
重い音と共に、テレポートしてきたエルクゥが倒れる。
・・・動いているエルクゥは2体・・・いや、3体となった。
「やれやれ、やっとこさ周りに迷惑かけない移動方法思い出したぜ・・・。
何て間抜けなんだ俺って。」
倒れ伏すエルクゥを見ながら呟いた後で、耕一の方を向くと、
「他力本願は良くねえなぁ。まぁ、頼られるのは嬉しいけど。」
「彼」は言った。
すぐに貴之の「残骸」へ視線を向け、手をそちらに振る。「霞」が
湧き起こった。
「るせぇ。俺が戦えればとっくにやってる!・・・でも、
ありがとよ・・・。」
「これでよし・・・と。やっと、だな・・・。」
「霞」に包まれた貴之を見ながら、「彼」は何故かニヤリとした。
そのまま、
「どう致しまして。」
と呟いた後で耕一の方を見、
「勿論冗談だよ。しっかりそのコ達かばってやっててくれ。
俺は万能からは程遠い。それに、倒した奴らもいつ息吹き返すかわからん。」
言った後、「彼」は「それら」の方を向いた。
「お、おい、その、たかゆきとかいう奴、どうにかなるのか?
それに・・・その・・・」
「貴之クンなら一応大丈夫だ。『ヤ』られた時と同じ記憶が戻るとは限らない
がな。」
耕一の言葉に答え、何故か再びニヤリとする「彼」。
「本当かね・・・う・・・」
不信気に言って貴之の方へ顔を向けた耕一が見たものは、頭の形をとりつつ
ある「霞」だった。
辺りに散らばっていた筈の貴之の頭部の欠片群は、いつのまにかどこにもない。
「・・・という訳だ。それよりこっちの方が問題だぜ・・・。」
「あの・・・なあ?その・・・千鶴さん達も・・・」
「何かさっきと違って、うちらの方が優勢だ。千鶴さん達やゆーちゃんも。
俺が手を出すまでもねえよ。」
「彼」のその言葉が終わるか終わらないかのうちに、
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
ズンッ。
苦鳴と共に、千鶴達の「対戦相手」が、地面に伏した。
「な?」
「・・・成る程ね。で、そっちの方はどうにかできるのか?」
「どうにかしたいな。
・・・・・・組織再構成は終わり、か。ふむ、ラッキーな事に、のーみそは死に
きってない。殺られたあと、そんなに時間が経ってなかったらしいな。・・・
記憶消去の手間ぁ省けていい。よし、次は・・・」
「霞」の一端に手を翳しつつ独りで呟いた後、「彼」は、「それら」を「運んで
きた」エルクゥへ顔を向けた。
「『残り』がどこにあるか、教えてもらうか。」
倒れ伏すエルクゥの頭に、霞がかかった。
「転移経路・・・ふむ・・・こっちか・・・『ぱーつ』が人に見つかって
なきゃいいが・・・。
おい、千鶴さん!」
「彼」は叫んだ。
「!何です?!」
裕也の方へ跳躍しかけていた千鶴と梓は、踏み止まった。
千鶴が叫び返す。
「悪いが、ちと『おでかけ』してくる。こっち・・・」
言いつつ「それら」へ手を振って見せ、
「・・・の方は一刻を争うんでね。
あんたらなら、連中が増えても少しはもつだろう。何てったって、戦い
方を教えたんだからなぁ。
まぁ、無茶苦茶デキのいい生徒なんで助かるが。」
言って「彼」は、ニッと笑った。
「・・・ふふ。わかりました。
でも私達だけではやはり心もとないですから、できるだけ・・・」
僅かに口元と目尻を曲げ、千鶴が笑い返す。
完全に、「戦う者」・・・いや、「狩る者」の凄愴な微笑みだった。
耕一・・・いや、梓や楓、初音までもが目を奪われる。その美しさと・・・凄みに。
びくっ。
初音が、少し震えた。
「りょおかい。
倒れてる奴らに気を抜くんじゃないぞ。」
言うと、再度「彼」は、その場の地球人---日本人---達に、険しい目
をはしらせた。激しく戦い続ける裕也とて例外ではない。
「・・・気休め終了。んじゃ。」
口元だけで微笑んで---目は全然笑っていない---、「彼」は振り返った。
そのまま身構え、ダッシュする。
「あ、あの・・・」
「お、おい、出口はそっちじゃ・・・」
「おいってば?!」
思わず千鶴達が叫んだ時、「彼」は塀にぶち当た・・・らず、そのまま溶け込んで
しまった。風ひとつ巻かずに。
「い・・・一体・・・」
「あ、あいつ・・・何者なんだ・・・?」
一瞬呆然とする千鶴達。
少しして、
「!ど、どうして誰も気付かないのかしら、これだけ大きな音を立てている
のに?」
千鶴が呟いた。
「そう言えば・・・あ!そ、外の音もしてないんじゃない?」
梓が続ける。
「と、いう事は・・・音が遮断されている?」
千鶴が結論を出した。
「『どっち』のせいだ?」
耕一が呟く。
「・・・あの人の力、と、思いたいですね・・・」
千鶴は少し俯いた。
しかしすぐ、きっ、と顔を上げる。
何か気迫が・・・いや、怖さが感じられた。
「梓。あの人が言ってた通り、倒れている鬼達をもう一度見ましょう。
息を吹き返さないうちに、・・・とどめを。」
感情を一切はさまない声で、言う。
「あ・・・あ、ああ。」
千鶴の迫力に怖さを覚えつつ、何とか声を絞り出す梓。
「楓、初音。耕一さんと一緒に、どこか物陰に隠れていて。
耕一さん、二人を頼みます。」
「え?し、しかし・・・わかった。気をつけて。梓も。」
一瞬躊躇したが、自分にできる事がそれくらいだという事に気付いて、
耕一は承諾した。
「はい。」
今度は優しい顔でにっこりと微笑みながら、千鶴は耕一に答えた。
一瞬「涼しさ」が「暖かさ」
に変わる。
しかし、再び凄愴な気を纏いつつ振り向いて、倒れ伏すエルクゥへと歩み始めた。
「ちゃんと隠れてろよ。」
梓も、緊張しながらも口の端を緩めて耕一へ言い、千鶴の後を追った。
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地、固まる前の時雨 by oneeven
「どうすれば・・・どこを『や』ればいいのかしら・・・」
「彼」が最初に倒したエルクゥを前にして、千鶴は呟いた。
「そんな事は決まってるだろう、腹かどこか一刺しすれば・・・」
梓が答える。
「それでうまく行けばいいけど、あの人が言うには、どうもこの鬼達、
私達とは体の造りが少し違うみたいじゃない?」
「?そんな事言ってたっけ?」
「ええ。技が効かなかったって。」
「単に下手なだけじゃないの?」
「『二回目』の時は、うまくいってたから、そうじゃない気がするわ。」
「う〜ん・・・」
「まあ、これ以上悩んでも仕方ないわね。
早く終わらせて、やな・・・裕也さんに加勢しなくては。
とりあえずあの人が当て身を入れていた所に・・・やってみましょう。」
「え?千鶴姉、あいつの攻撃見えてたの?!」
「ええ。
・・・やるわ、梓。突然息を吹き替えして攻撃してくるかもしれないから、
注意してて頂戴。」
言って千鶴は、うつ伏せのエルクゥを見た。
「・・・・・・」
めきめきめき。
辺りが少し「涼しく」なり、千鶴の手から鈎爪が生える。
ふと、「帯」に目が行った。
脈動していた。
「!・・・い、いけない!」
すぐに腕を振り上げる。
ヒュン・・・
ザッ。
振り下ろされた千鶴の爪は・・・対象がとっさに体をずらした為、
「帯」の一部を裂いたのみだった。
「!気が付・・・」
バッ・・・
「グオオオォォォ!!!」
瞬時に跳ね起き、飛びすさったエルクゥは、威嚇の雄叫びをあげた。
ばっ・・・と辺りを見回し、「敵」(=「彼」)の存在を確認する。
すぐに、
「GRAURURU・・・GUUEEEATTT
WAAAAPPP!!!」
異音を発した。
「ひっ・・・」
「うわっ・・・」
千鶴達が驚き、
ガバッ!!
「グオオオォォォ!!!」
辺りに累々と倒れ付していたエルクゥ達も、突然頭を起こすや、声を上げた。
「な・・・なに・・・あ、あたまにちょくせつ・・・」
「お、お、おき、おきろ・・・?」
「GUAAALLDDEZEEZEOOBUZEEAGGUUUTT!
GUEEEGOOBUUKKKUUTUUUYOOOKU!!!」
「GUUYYEEEEZZZUUOOOUUAAAGUUGUAAZZ
UDEERRRR!!!!」
そのエルクゥの「声」に、辺りのエルクゥは一斉に応えた。
「指導者」は、千鶴達を睨みながら、尚も「命令」を続ける。
「GUAAIINNDGAANNDZYAZZITHEGAGTERGOG
ZEGGUT・・・GUABDERRZAZZU,GUEEGOUGUAG
GZUUUGYOOOGU.
GUAI,GUNNDD,DYU,DYU,DYU,GUAZIZEAMM.」
「指導者」は、三体のエルクゥを指して、千鶴達へ顎をしゃくった。
「あれって・・・」
「私達を・・・」
「くっ・・・」
「指導者」の意図を察し、梓と千鶴が呟く。
・・・いや、蔵の中に身を隠し、様子を見ていた耕一も。
「GAZEAAGUWANNGUAINNDGAZZERGUOOGUJEAGUTT.
GUREEEGAKKU!」
「GUAJEAAAAA!!」
バッ。
「命令」に、エルクゥ達は再び一斉に応え、跳んだ。
バリッッ!!
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「グオオオオオオオォォォォォォ!!!」
何か分厚い物が破られる音と共に、
襲い掛かられる者達と、襲い掛かる者達の雄叫びが重なった。
しかしすぐ、
「うあぁっ!!」
どんっ。
6つの肉体が地面を叩く音がし、千鶴と梓は、それぞれ二体の
エルクゥから地面に踏みにじられた。
「くっ・・・」
しかし、二人共さほどの衝撃は感じてない様子で、地面に手をついて何とか
起き上がろうとする。
「ち、千鶴さん、梓!!」
「お姉ちゃん!」
「姉さん!」
耕一、初音、楓が叫んだ。・・・エルクゥの腕の縛めの中で。
先程漏らした僅かな声で、エルクゥ達は、耕一達の居場所を
突き止めていた。
「初音、楓、こうい・・・ぐうっ!!」
「耕一、はつ・・・ぐあっ!!」
耕一の声に、身を起こそうとした二人は、更に踏みにじられて
地面に伏した。
「く・・・くそ・・・は、離せ!!」
ビクッ・・・。
耕一の叫びに、耕一を捕らえていたエルクゥは突然びくりとし、
・・・耕一を離した。
「うわっ!!」
豪腕の縛めを解かれ、前につんのめる耕一。
「?
・・・ち、千鶴さん、梓ぁ!!!」
開放された事に一瞬戸惑ったが、すぐに耕一は千鶴達の方へ駆け出した。
「お兄ちゃん!」
「耕一さん!」
「こ、こういちさん・・・」
「ば、ばか・・・にげろ・・・」
姉妹がそれぞれに耕一の名を口にする。
と、
ザクッ。
どむっ。
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
戦闘の音が聞こえた。
「命令」も聞こえずに戦い続けていた、裕也と「相手」の立てる戦いの音が。
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
ザクッ、ザクッ。
どん!どむっ。
「グオオオオオオォォォォォォォ!!!」
両者相譲らず、傷だらけになりながら---いや,裕也からは,血一滴出ていない---攻防を
続ける。
彼らの攻防を目にし、「指導者」は再び声を上げた。
「GUAIGAGGEEETTU.GUIGGREEVEVA
INNDUDUZAZZU!」
耕一を睨みながら、裕也を指す。
再び発せられた「命令」に、エルクゥ達は裕也を見た。
柏木家の係累を捕らえていないエルクゥ全て---2体を除く---が、一斉に
獲物目掛けて跳躍の体勢をとる。
ザクッ。
相手同様、辺りにお構い無しの戦いを続ける裕也は、丁度相手の
「帯」の一部を爪で裂いた所だった。
「裕也!!」
無意識に耕一が叫んだ時、
残像と共に、両手に何かを抱えた「彼」が出現した。
その場の意識ある者全て---感情に我を忘れた2体のエルクゥを除く---
は、「彼」を見た。その場に凝固する。
その視線に呼応するかの様に、目だけを動かして周りを見ると、
顔は起こしたまま、「彼」は身を沈めて「荷物」を地面に置いた。
「荷物」は、両方共片方の端が二つに分かれている。
「裂け」は・・・深い。
とん。
ガッ。
「彼」が「荷物」を地面に置いたのと時を同じくして、攻防を続ける者達は、
他を全く意に介さず、がっしりと手を握り合って力比べに入った。
ハッ・・・。
「GUUUMMPP!!」
それらの音に我に帰った「指導者」が、何かを叫んだ。
「ZEEESSSZZZEEEAAA!!!」
「いあぁっ!!!!」
すぐにエルクゥ達の応答と、「彼」の気合いが柏木家の庭に響く。
一瞬辺りに黒い霧が舞ったかと思うと、
ブワッ・・・。
そこかしこに空気の乱流が起きた。
乱流が収まった後、柏木家の広大な庭に残っていたのは、
貴之、「それら」、そして・・・「彼」と耕一のみだった。
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地、固まる前の時雨 by oneeven
「くそ・・・対物速度選択シールドが裏目に出たか・・・。
まさか一緒に連れて行っちまうとは・・・」
呟く「彼」に、
「お、おい・・・み、みんなテレポートしちまったのか?」
耕一は尋ねた。
「ああ。」
地面に飛び散った黒い---昼ならば赤く見える筈---液を見つつ、「彼」は
簡潔に答えた。
「手応えは・・・無い訳じゃないが・・・連中にとっちゃあ浅手か・・・」
「これ・・・奴等の血なのか?」
「ああ。」
上の空で耕一に答える「彼」。
一瞬「荷物」を見、すぐに空(くう)を見つめる。
顔には逡巡の色が出ていた。
「くっ・・・」
意を決して「荷物」に駆け寄ると、・・・ぴたっと静止した。
「くそっ・・・一体どこに・・・。
おいあんた、みんながどこに行ったか・・・?
おい?どうした?」
耕一の問いに全然反応せず、「彼」は立ち尽くしていた。
「おい!返事くらい・・・うわっ・・・」
耕一が「彼」の肩に手をかけようとした時、突然「彼」の姿が
薄らぎ始めた。
「な、な、何だこりゃ・・・?」
思わず耕一が呟いた時、不意に「彼」の姿は元に戻った。
「おい!どうしたんだ?」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
耕一が「彼」に声をかけるのと、「彼」が突然苦鳴と共にのた打ち回り
始めたのが同時だった。
「おい!」
「ぐぅっ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「彼」の苦痛はそう長くは続かなかった。
再度耕一が声を掛けた時、「彼」は四つん這いの姿勢で、激しい
息をついでいた。
「おい、一体どうしたんだ?大丈夫か?」
耕一が尋ねる。
「ああ・・・何とか・・・」
声を絞り出しながら、「彼」は耕一に答えた。
弱々しく片手を地面から離すと、「それら」「荷物」の方へ向けて
振る。
「よし・・・んじゃあ次は探索と行くか・・・」
呟くと、「彼」はそのまま地面に仰向けに横たわった。
目をつぶる。
「一体どうしたんだ?」
耕一が尋ねる。
「なに・・・俺のおもちゃのコントロールは『マルチタスク』じゃ
なかったんでね・・・。ちょいと作り替えたのさ。
あんまり『原理』を考えなかったんで、『しっぺ返し』が来ちまった
んだよ。」
「???おもちゃ?しっぺ返し?一体何の事だ?」
「俺は物理法則を・・・ああめんどい。
つまりだな、こーいっつあんや千鶴さん達の体を直したのは、俺の
ナノマシーンなんだ。あんなのだよ。」
言って「彼」は、「霞」に包まれた「それら」「荷物」を指した。
「へ?」
「んで、阿呆な俺は、そのコントロール方法を中途半端に考えてた
もんで、複数の仕事を同時にさせる事ができなかったんだ。だから、
それをできるように作り替えたのさ。」
「???作り替えるのに何であんたが七転八倒するんだ?」
「そりゃあ勿論・・・俺が物理法則をよく理解していない阿呆だからさ。
法則を捻じ曲げたツケが周ってきちまった。」
「???も・・・もういい・・・とりあえず大丈夫なんだな?」
「ああ。」
はぁー。
さっぱり要領を得ない「彼」の回答に眉をしかめ、頭に手をやりながら、
耕一はため息をついた。
と、
「見つけた・・・」
突然目を開き、「彼」が呟いた。
「え?」
「見つけたよ。奴等とみんなの居場所を。ナノをばらまいといてよかった。」
「?」
「『もうひとつの仕事』、さ。」
言いながら「彼」は、よっこらしょ・・・と立ち上がった。
普通より薄着の---裕也に渡した為---服から、土を払う。
もうすっかり回復している。
「???・・・!!
ど、どこに居るんだ?無事なのか?」
「一応みんな生きてるようだ。
有り難い事に、どうやら地球の裏っ側あたりに居るらしい・・・」
「なっ、なにぃ〜?!」
「いや、少し左・・・『東寄り』か」
「どこが有り難いんだよ!」
「少なくとも地球表面付近に居るからな。だが、少しまずい。二手に分かれている。
オマケにあそこ辺りっつったら・・・戦場が多そうな・・・。
!も、もしかして、連中のテレポート先って、強い感情が
湧くトコ?」
「・・・。
!!!」
呆然としながらも言葉を紡ぐ「彼」の言葉を、矢張り呆然と聞いていた耕一は、
はっ・・と我に返った。
「お、追いかけなきゃ!!なあ、あんたの事だから、テレポートできるんじゃない
のか?俺を連れてってくれ!」
「・・・生憎テレポートは原理が分かんないんで、やったら何が起きるかわかんないんだ。」
「・・・?じゃ、じゃあ、飛ぶのは?空くらい飛べるんじゃないのか?
な、なあ、手を貸してくれ!頼む!!」
「勿論このまま知らん振りするつもりは全然無い。でも・・・空はなあ・・・」
「じゃ、じゃあ、飛べないのか?」
「・・・距離はできるだけ短いほうがいいだろ?ただ、俺って高所恐怖症気味
だから、落下感が大っ嫌いなんだよなあ」
顔をしかめ、地面を見つめながら、「彼」は言った。
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