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マコトたちが参加する形で作戦が決まって、ヒロシの生活は一変した。学校でも、放課後でも、ヒロシはマコトたちと一緒にいることが増えた。ヒロシが苦情を言っても、マコトたちはお構いなしだった。 でも、作戦決行前夜になっても、ヒロシはマコトたちを信じられないでいた。 そのため、ヒロシが自分の部屋で不機嫌になっていると、マコトたちのところから戻ってきたミキに声を掛けられた。 『どう、少しは信じられるようになった?』 「いいや。どうせ無理なんだよ」 『そんなこと言わないの。明日までまだ時間はあるんだから』 ミキはヒロシの部屋のディスプレイに姿を映してたしなめたが、不機嫌の塊になっていたヒロシは収まらなかった。 「大体、作戦が無茶苦茶なんだよ。義眼へのこだわりを捨てるなんて、できるわけないじゃないか。こだわってるからこそ、こんなことしてるんだろ」 『それはそうだけど、それでも捨ててくれなきゃ。ヒロシだって作戦を成功させたいんでしょ』 ベッドにひざを抱えて座っているヒロシに責められても、ミキはヒロシに話し掛け続けた。 『ヒロシが他の方法でヒラタさんたちを信じられるのならそれでも良いけど、ないならなんとかして義眼へのこだわりを捨てなきゃ』 「…………」 『別に、全部捨てろとか、義眼を好きになれとか言ってるわけじゃないのよ。ヒラタさんたちがヒロシを嫌ってなくて、ヒロシに心から協力しようとしてるって信じられれば良いの』 「…………」 ヒロシはミキをにらみつけたまま話を聞いたが、ヒロシもミキの言うとおりだとよく分かっていた。でも、信じなければと思うほど、今までの嫌な記憶が邪魔をした。 ――ヒロシ君の目、気持ち悪ーい! ヒロシは強く頭を振って、よみがえった記憶を振り払った。ヒロシの記憶には、ヒロシの義眼を理由に薄気味悪がったり、哀れんだりする人たちが一杯だった。 (こだわってるのは俺じゃなくて他のヤツらの方だ。ヒラタたちだって心の中は分かるもんか) むしろ、気にしてない振りをするマコトたちこそ警戒すべき相手かもしれなかった。 でも、それでは何も変わらなかったから、ヒロシはまた一つ不機嫌を抱え込んだ。 すると、ヒロシの気持ちに気付いたのか、ミキが再び話し掛けた。 『ヒロシ、今思い付いたんだけど、考え方を変えてみたらどう?』 「……どう変えるんだよ?」 『ヒラタさんがヒロシを好きになったから協力してくれるんだって考えたら?』 「は?」 『ヒロシは結構カッコイイんだし、「陰のある謎の男」って感じでしょ』 「何バカなこと言ってんだよ」 顔を上げたヒロシはあきれてミキに言い返した。 「俺は義眼なんだぞ」 『だから、好きになっちゃえば関係ないって』 「そんなはずあるか」 『じゃあ、義眼のこと以上に好きになったって考えてみたら?』 ミキは意外と本気な様子で、ヒロシはあきれ果てた。すぐに反論したかったが、心のどこかで喜んでいる自分に気付いて動揺した。 「……そ、そんなことあるはずないだろ。俺は格好良くなんてないし、ヒラタはスギムラと付き合ってるって話だぞ」 『そう? 私にはそう見えなかったけど?』 反論するヒロシにミキはすまして言い返して、ヒロシのさらなる動揺を誘った。ヒロシも密かにマコトに興味を持っていたから、ミキの言葉を無視しきれなかった。 そのため、ヒロシは動揺を隠しきれなくなって、ミキにさらにつけ込まれた。 『どう? 少しはヒラタさんたちを信じられるようになった?』 「ま、まさか。スギムラとか、他にもいくらでもいるのに、俺なんかを好きになるはずないだろ」 『じゃあ、がんばって義眼へのこだわりを捨てる?』 「う……」 ミキの見えないところへ逃げようとしていたヒロシは言葉に詰まった。誰かが自分を好きになるなんて信じられなかったが、他に良さそうな考え方を思い付かなかった。 それでも、ヒロシは必死にミキに反論する言葉を探して、なんとか話題をマコトからそらせた。 「……じゃ、じゃあ、他の三人はどう説明するんだよ?」 『サタケさんは前に言ってたとおり、アマヒラにもう一度会って確かめたいんでしょ。ミズタニ君は面白いと思ってるからでしょうし、スギムラ=スペンサー君はヒラタさんが参加するからだと思うわ』 「だったら、スギムラはどうなるんだよ? もしホントにヒラタがミキの言うとおりだったら、スギムラの方が問題だろ?」 『そうね。でも、スギムラ=スペンサー君ならヒラタさんの信頼を裏切るようなことはしないと思うわ』 「なんでだよ?」 『それが好きな子のためにできることだもの』 ――! ミキはヒロシの目を見ながらきっぱり言い切って、まだミキの見えないところへ逃げようとしていたヒロシは胸に鋭い痛みを感じた。まるで、ヒロシはマコトの信頼に応えないのかと問いただされたみたいだった。 『ちなみに、私たちの準備も万全よ。問題なのはヒロシがヒラタさんたちと協力して、確保したアダムの遺産の残り半分を外に持ち出せるかだけ。NSS本社ビルの中に入れるのはヒロシとヒラタさんたちだけなんだから、ヒロシもヒラタさんたちを信頼しなきゃ』 「…………」 『ねえ、どうする? 一旦休憩して、もう一度、義眼へのこだわりを捨てられるように挑戦する?』 「……いや、いい。義眼へのこだわりを捨てるのはもう止めだ」 『じゃあ、もう一つの考え方を認めるのね?』 「…………」 ヒロシはミキに答える代わりに赤くなった。 「べ、別に、俺もヒラタを好きになったっていうわけじゃないからな」 『はいはい。じゃあ、もう聞かないから、明日はヒラタさんたちとうまく協力してね』 「ミキこそ、誰にも言ったりするなよ」 『分かってるって』 恥ずかしさで不機嫌になったヒロシが要求したが、ミキは軽く受け流してヒロシを座り直させた。 『じゃあ、ヒラタさんたちの装備の確認も終わったし、特別に良いことを教えてあげる』 「……は?」 『ヒラタさんが嫌いなアマヒラは機人じゃないわ』 「え!?」 『もちろん、電人でも人間でもないわ。人って見掛けによらないものね』 「ど、どういうことだ!?」 ヒロシが驚いて尋ねると、ミキはヒロシに落ち着くように片手を上げた。 でも、人間そっくりのロボットは法律で厳しく禁止されていたから、ヒロシはミキの話に混乱した。 「その話、本当なんだろうな!?」 『確かめたかったら、本人に直接尋ねてみなさい。きっと、少しは逃げる時間を稼げるはずよ』 「間違ってたらどうするんだよ! ロボットの疑いを掛けるなんて、最低の侮辱じゃないか!」 『大丈夫、ロボットでもないから』 ミキは自信たっぷりに言って、強引に話題を替えてしまった。 『あら、もうこんな時間。あとはじっくり休んで、明日のための英気を養ってちょうだい』 「おい、まだ話は終わってないぞ!」 『だから、確かめたかったら、明日、本人に直接尋ねてみなさい。気になることは一つより二つあった方が良いでしょ』 「何!?」 ヒロシが一瞬だけミキの言葉の意味を考えたすきに、ミキはディスプレイから姿を消してしまった。 「あ! おい、ずるいぞ!」 『ヒロシ様、どうかなさいましたか?』 「ミキは!?」 『お帰りになりました。その際、ヒロシ様がお呼びということでしたので』 「呼んでない!」 ディスプレイに映った斉藤に怒鳴って、ヒロシはもう一度ミキを呼び出そうとした。 (『気になることは一つより二つあった方が良いでしょ』って一体どういうことだよ) 納得がいかない気持ちで呼び出し続けていたヒロシは、突然、「気になること」のもう一つがマコトのことであることに気付いた。 ――ヒラタさんがヒロシを好きになったから協力してくれるんだって考えたら? ヒロシは脳裏によみがえったミキの言葉に再び赤くなって頭を抱えた。マコトたちと協力するための方便とはいえ、なぜ認めたのかと自分が恥ずかしくてならなかった。 『ヒロシ様、大丈夫ですか!』 「ほっといてくれ!」 『ですが、お加減が悪いのではありませんか?』 「いいからほっといてくれ! 今は一人になりたいんだ!」 ヒロシの様子に気付いた斉藤をもう一度追い返して、ヒロシはベッドに座り直した。 「……何が『二つあった方が良いでしょ』だ」 確かに、二つあれば一つのことで必要以上に悩まなくて済みそうだったが、悩みは二倍だった。 ヒロシはしばらくそのままの姿勢で考えてから、ベッドに仰向けになった。 「どうやって『英気を養う』んだよ……」 独り言のようにつぶやいて、ヒロシは明日のことを思った。 |
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