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14、作戦


 ヒロシとNSSの関係を説明してもらうことになったマコトたちは、翌日の昼休みに学校の保健室に集まった。「秘密が守れて、不自然ではない」というのがその理由だったが、マコトたちは露骨にガッカリしていた。
「保健室か。ウミダさんももっと違う場所にしてくれれば良かったのに」
「それもそうだけど、昼休みだけで説明できるのか?」
「やっぱり、ウミダさんに言っといた方が良かったんじゃない?」
 窓越しに外の様子を見ていたキヨミがマコトを振り返った。キヨミはさっきから落ち着かない様子で、言葉を交わしていたノボルと共に保健室の中を行ったり来たりしていた。
「大体、肝心のフジムラがまだ来てないってどういうこと?」
「あたしに聞かないでよ」
「ま、すぐに来るだろ。ウミダさんはさっき到着したらしいから」
 マコトがキヨミに言い返すと、一人だけ慣れた様子で座っているタケルがキヨミをなだめた。
「それより、お前たちはどんな話をするんだ?」
「秘密。フジムラのプライバシーだもん」
「おいおい、俺はお前たちを信用してここを貸すんだぞ? もう少し詳しいことを教えてくれたって良いじゃないか」
「だーめ。タケルだってウミダさんから少し聞いてるんでしょ?」
 キヨミはタケルの頼みをあっさり断った。イスの背もたれから上体を起こしていたタケルはマコトやノボル、シンジを見回したが、三人ともさりげなく目をそらせた。
「薄情だな。でも、マコトは教えてくれるよな?」
「あたしじゃなくて、本人たちに直接聞いてよ」
「二人とも口が硬くてダメなんだよ」
「だったら、よけいにあたしが話せるわけないじゃない」
「そこをなんとか」
「やだってば」
 マコトはきつくならない程度にタケルの頼みを断った。でも、ヒロシがアダムの遺産を使って電子空間に住みたがっていると知ったら、タケルはどう思うかと思った。
 そして、あきらめたタケルがマコトから目を離したところで、タケルのケイタイが短く鳴った。
「お、来たな」
 タケルの言葉にマコトたちが一斉にドアに注目して、遅れて来たヒロシを迎えた。
「遅いじゃない!」
「な、なんだよ。お前らが早いだけだろ」
 保健室に入ってきたヒロシはいきなり怒られて驚いた様子だったが、キヨミは構わないでヒロシに指示した。
「早くそこに座って。昼休みはあと三十分くらいしかないんだからね」
『そうね。テキパキ進めましょう』
 天井からミキの声も聞こえて、ヒロシはおとなしく指示された席に向かった。
 その間に、ミキはタケルにもあいさつをすませた。
『ヒュウガ先生、ライトスタッフ探偵事務所のウミダです。今日は突然の頼みに応えてくださってありがとうございます』
「いや、こっちこそヒロシを守ってくれてありがとうございます。どうぞ、そこのディスプレイを使ってください」
『ありがとうございます』
 ミキはヒロシの席の隣に置かれたイス型のディスプレイに姿を映した。近くに座っていたマコトが軽く頭を下げると、ミキはほほえみ返してからタケルに向き直った。
『では、早速話させてもらってよろしいですか?』
「どうぞ。俺はすぐに退散しますから」
 タケルはミキに答えながら立ち上がって、歩き始める前にヒロシやマコトたちを一瞥した。
「お前たちもウミダさんの話をよく聞くんだぞ」
「いいからさっさと行け」
「おい、ウミダさんにもそういう口の聞き方をしてるんじゃないだろうな?」
 ヒロシの発言に、タケルはとがめるように近付いた。
「こっちに来んな」
 嫌がるヒロシは両手を使って抵抗したが、タケルは簡単にヒロシの頭を押さえ付けた。
「いつも注意してるんですが、無愛想で口の聞き方を知らないヤツですみません。ウミダさんも遠慮なく注意してやってください」
『分かりました』
 ミキが答えると、タケルはもう一度ヒロシの頭を強く押さえてから保健室を出ていった。
 そのため、ヒロシはタケルが出ていったあともしばらく機嫌が良くなかったが、ミキは気にしない様子で話し始めた。あとから座ったキヨミとノボルも含めて、マコトたち六人は保健室のほぼ中央にある大きな丸テーブルを囲んで座っていた。
『じゃあ、早速話を始めるけど、ヒラタさんたちの気持ちは変わってないのね?』
「もちろんです」
『話を聞いたら、これから話す計画にも協力してもらうことになるけど?』
「平気です」
『ヒロシは?』
「嫌だって言っても通用しないんだろ?」
 ミキに話を振られたヒロシはまだ不機嫌な様子で答えた。
「協力してもらうんだったら、さっさと協力してもらえばいいじゃないか」
『でも、ヒロシはちゃんと協力できる?』
「できるさ」
 ヒロシは少しムキになって言い返した。
「俺だってやればできるんだ」
『そう。じゃあ、指輪のことから説明してあげて』
「う……」
 言葉に詰まったヒロシは少しの間ミキをにらんでから、マコトたちに説明を始めた。ヒロシは昨日の出来事から態度を少し軟化させていて、マコト以外の三人にもヒロシの違う一面が伝わり始めている様子だった。
 説明の最初に、ヒロシはシャツの胸元から引っ張り出した指輪をマコトたちに見せた。
「この指輪、見えるな?」
「その指輪がどうかしたの?」
「この指輪には、アダムの遺産の半分が入ってるんだ」
「え!?」
「残りの半分はNSSの元会長が戦争中にリズを殺して奪ったらしい。だから、NSSは俺の指輪を手に入れたがってるし、俺とミキはNSSから残りの半分を取り返そうとしてるんだ」
「……じょ、冗談でしょ?」
「こんなこと冗談で言うもんか。といっても、全部ミキから聞いた話だけどな」
 ヒロシが怒ったようにキヨミに言い返すと、マコトたちはすぐにミキに向き直った。
「ウミダさん、本当なんですか?」
『本当よ。リズが殺されたあとにアダムの遺産の半分は見付からなかったし、リズを殺したのは元会長と彼の人形たちだから』
 ミキにも肯定されて、マコトたちは改めて言葉をなくした。リズの死に元会長が関係していたことはドラマなどで知っていたが、元会長が奪っていたなんて聞いたこともなかった。
 でも、信じたくない様子のキヨミはミキに尋ねた。
「……リズが隠したんじゃないんですか?」
『いいえ。リズは包囲網からアダムの遺産も脱出させようとしたけど、隠しはしなかったわ。電子空間にものを隠すのはとても難しいのよ』
「でも……」
『そうね。信じたい気持ちは分かるけど、アダムの遺産の半分を持ってなかったら、ヒロシにあんな提案はできないわ。
 ヒロシ、サタケさんたちに見せてあげて』
「ああ」
 ヒロシはシャツのポケットからアマヒラの名刺を取り出してテーブルに置いた。
「自分たちで適当に読み取ってくれ」
「良いの?」
「ああ。でも、言っとくけど、俺が拒否したのは、実験台になるのが怖かったからじゃないからな」
 念のため確認したマコトに、ヒロシは言い訳するように付け加えた。マコトは昨日のアマヒラとミキのやりとりを思い出して、警戒しながら読み取ったケイタイの画面を見詰めた。
 そして、キヨミとマコトに続いてノボルとシンジも読み取ったが、マコトたちはなかなか口を開かなかった。
「……確かに、フジムラがアダムの遺産の半分を渡せば、アダムの遺産が全部そろうような書き方だな」
「それより、謝礼金が五千万だぞ。売れば五億って、どこまで本気なんだよ」
『でも、アダムの遺産で電子空間に住むための技術を他より先に完成させたら、利益はその千倍じゃきかないでしょうね』
「マジかよ……」
 書かれていた金額に注目していたノボルがうめいた。
 ミキはシンジと話し始めたノボルから目を離して、ケイタイの画面を食い入るように見詰めているキヨミにも声を掛けた。
『サタケさんは理解してくれた?』
「で、でも……、他の人から手に入れたのかもしれないじゃないですか」
『そうだとしたら、なぜリズの仲間に返さなかったのかしら? 戦後に結ばれた和解協定に違反するのよ?』
「…………」
 キヨミが答えられなくてうつむくと、マコトが割って入った。アマヒラの提案はマコトにとってもショックだったが、ミキはキヨミに少し厳しすぎると思った。
「でも、だからって取り返せるんですか? 昨日だって、『対抗訓練』を断られてたじゃないですか」
『良い質問ね。私もそれを説明したかったの。私たちの計画を聞いてくれる?』
 振り向いたミキは待ち構えていたようにマコトを見詰め返した。
『もちろん、聞いて黙っててくれるだけでも良いから』
 ミキの口調はさりげなかったが、マコトはミキが自分を試していると感じた。
(ここで聞くだけだったら、フジムラを拒否するのとおんなじじゃない)
 キヨミたちは納得してくれても、ヒロシは絶対マコトを軽蔑すると思った。
 マコトの視界のはしではシンジがマコトを見ていたが、マコトはシンジが尋ねるより先にミキに答えた。
「もちろん聞くし、協力します」
『ありがとう。他の人たちはどうかしら』
「俺も聞くし、協力する」
「俺も。どんな計画か分からないけど、今さら黙って見てるなんて嫌だからな」
 シンジに続いてノボルも言って、キヨミも少し間を空けてから答えた。
「……あたしも協力する。もう一度アマヒラさんに会って確かめたい」
『ありがとう。ヒロシもお礼を言いなさい』
「……ありがとう」
 ヒロシは明らかに戸惑った様子でマコトたちに頭を下げた。
 でも、マコトはヒロシに感謝された分だけ、罪悪感で胸が痛んだ。

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