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13、参戦


 アマヒラとの話が終わり、お菓子も食べ終わったヒロシたちは、アマヒラたちに見送られて帰りの電車に乗った。マコトたちも一緒で、ヒロシは電車に乗る前から気に入らなかった。マコトたちは当然のようにヒロシの周りに陣取って、権利があるみたいにヒロシを問いただし始めた。
 まず、最初に口火を切ったのはヒロシの右隣に座ったキヨミだった。
「なんで断ったりしたのよ! とっても良い提案だったんでしょ!?」
「関係ないだろ」
「関係なくないじゃない! あたしたちだって関係者なんだからね!」
 キヨミは明らかに怒った様子で主張した。ヒロシが無視しようとしても、キヨミは身を乗り出してヒロシに答えを迫った。
「ちょっと、答えなさいよ」
「答えといた方が良いぞ。こうなると、キヨミはしつこいからな」
「なによ、ノボルだって知りたいくせに」
「違うね。俺が知りたいのは、なんでNSSやELFが出てきたかってことだからな。
 なあ、『協力』って一体どういうことだ?」
 ヒロシの右前に立っているノボルもヒロシに尋ねた。キヨミと違って怒ってなくても、ヒロシに答えさせようとしている点ではキヨミと同じだった。
 そのため、ヒロシが左を向いて無視しようとすると、今度は左隣に座っているマコトから問い詰められた。
「一体あの人たちは何のつもりなの? フジムラの『協力を必要としている』なんて言ってたけど、やってることはすごい失礼じゃない!」
 マコトはヒロシをまっすぐ射抜くようににらんだ。アマヒラに無視されたことが我慢できなかった様子で、その分の怒りが視線にこもっていた。
「フジムラは何か知ってるんでしょ」
「そうよ、あたしたちも関係者なんだからね」
 ヒロシは左右から質問攻めにされて腹が立ったが、マコトたちの追及は止まなかった。ヒロシの左前にはシンジが立っていて逃げられなかったし、キヨミはヒロシの右肩をつかんで揺さぶりさえした。
「ホントになんで断ったのか教えなさいよ」
「頼む、少しだけで良いんだ」
 しつこい追及に、我慢できなくなったヒロシはキヨミの手を振り払った。
「うるさい! ほっといてくれ」
「何よ! あたしたちのことはどうだっていいっていうの」
「知るか! こういうときだけ話し掛けてくんな!」
 向き直ったヒロシはキヨミに言い放って、すぐにマコトをにらみつけた。
「ヒラタもだよ。家から尾行しておいて、何が『失礼』だ」
 ――!
「どうせ、俺を助けたのだって、恩を着せるためなんだろ?」
「違う!」
「だったら、なんで尾行したんだよ。昨日までは全員敬遠してたんだぞ」
 ヒロシはマコトが昨日の帰りのことをバラしたと思っていたから、マコトが一瞬ためらったのを見逃さなかった。
「図星なんだな?」
「違う! そんなこと言うなら黙ってればいいでしょ!」
「ああ、言われなくたってそのつもりだよ。さんざん薄気味悪がっておいて、都合の良いときだけ話し掛けてくんな」
 ヒロシはマコトに言い捨てて立ち上がろうとしたが、シンジがヒロシを押し戻した。
「何だよ?」
「マコトに謝れ。マコトはお前に恩を着せたくて助けたわけじゃないぞ」
「じゃあ、かわいそうに思ったんだろ」
 ヒロシがシンジをかわして改めて立ち上がろうとすると、シンジはヒロシの前に立ちふさがった。ヒロシと対照的に白い長袖シャツを羽織っているシンジは、ヒロシより背が高くて、怒った様子でヒロシに繰り返した。
「マコトに謝れ」
「謝るのはそっちだろ。こっちは尾行されていい迷惑だ」
「尾行したのは謝る。でも、マコトがお前を助けたのは、お前が一人だけでアマヒラさんたちに無理強いされてると心配したからだ」
 シンジは立ちふさがったままヒロシを見据えた。でも、シンジは細身で迫力に欠けたから、ヒロシはひるむことなく強引に通り抜けようとした。
「こっちは忙しいんだ」
「謝れ。マコトに謝るまでは通さないぞ」
 ノボルも加わって、ヒロシはシンジと押し問答になった。
 そして、押し問答がもみ合いにまでなったとき、マコトがヒロシを呼び止めた。
「待ちなさいよ。尾行も質問も、全部フジムラが逃げるせいでしょ」
「何?」
 ヒロシは振り返ってマコトをにらみつけたが、座っているマコトは正面からにらみ返した。
「薄気味悪がられてるのだって、フジムラが逃げてるせいじゃない」
「何だと! 俺のどこが逃げてるって言うんだ!」
「全部よ。逃げてないって言うんだったら、あたしたちの質問に答えなさいよ。簡単なことでしょ?」
「ヒラタたちには関係ない」
「そんなの聞いてみなきゃ分かんないじゃない。もしかしたら、あたしたちにも関係あるかもしれないでしょ」
 マコトはシンジとノボルに捕まっているヒロシを挑発した。
「一体、あの人たちは何のつもりなの? フジムラに求めている『協力』って何? フジムラはなんであの人たちの提案を断ったの?」
「言えるか! これは俺とミキの問題だ」
「じゃあ、あたしたちがフジムラに協力すれば良いんでしょ?」
「マコト!」
 キヨミが驚いて止めようとしたが、マコトはもう一度ヒロシに尋ねた。
「あの人たちはなんでフジムラに協力してもらいたがってるの? フジムラはあの人たちに協力できるようなものを持ってるの?」
「うるさい!」
 ヒロシがシンジとノボルを振りほどこうともがくと、今まで黙っていたミキが割って入った。
『ヒラタさん、ヒロシをそれ以上責めないで。私がヒラタさんたちをこれ以上巻き込まないように口止めしたの。だから、責めるなら私にして』
「え?」
『ヒロシもヒラタさんたちにケンカ腰になるのは止めなさい。話がこじれるだけじゃない』
 ミキはヒロシにもきつく注意して、改めてマコトに話し掛けた。
『ヒラタさん、ヒロシに色々言いたい気持ちは分かるけど、私たちのしていることは話せないの。ヒロシのプライバシーだし、ヒラタさんもアマヒラの言ってたことを聞いたでしょ?』
「……フジムラが狙われてる、ですか?」
『そう。だから、これ以上係わらないでほしいの。ヒロシはしばらく学校を休むから』
 ミキは戸惑っているマコトに言い聞かせた。
 でも、マコトの隣で聞いていたキヨミが我慢しきれない様子でミキに抗議した。
「そんな! 今さら知らなかったことにするなんて無理よ」
「せめて、一つくらい教えてもらうわけにいかないんですか?」
『気持ちは分かるけど、知ってることは少ない方が良いわ』
 ミキはキヨミに続いて尋ねたノボルにも諭すように答えた。
 そして、その間にシンジの手を振りほどいたヒロシは、改めてマコトを見下ろした。
「そういうわけだからな」
「何よ、フジムラだってあたしたちと“大して変わらない”じゃない」
 ――!!
 マコトの悔しそうな一言に、ヒロシは一瞬我を忘れそうになった。まさか、マコトから聞かされるとは夢にも思ってなかった。
「そんなことあるはずないだろ!! 俺は義眼だし、それを薄気味悪がってたのはお前らじゃないか!」
 ヒロシは車両中に聞こえる大声で叫んで、突き刺さりそうなくらい強くマコトをにらんだ。他の乗客の注目まで集めてしまうことに、ヒロシはまったく気が回らなかった。
「……な、何怒ってんのよ?」
「黙れ、アフリカ系」
 ――!
 ヒロシをなだめようとしたキヨミの表情が引きつった。マコトも驚いているようだったが、ヒロシの剣幕を見て、何も言い返さなかった。
「俺はもう嫌なんだ。ミキに協力して、電子空間に住むんだ」
「……え?」
「あ!」
 再び立ち去ろうとしたヒロシは言ってしまってから口をつぐんだが、間髪を入れずにノボルが引き止めた。
「おい、今の話はどういうことだ!?」
「聞くな!」
「もしかして、“アダムの遺産”を持ってるのか?」
 ノボルがヒロシの腕をつかむと、振り払って逃げようとしたヒロシはシンジにぶつかった。
「シンジ、逃がすな!」
「ああ」
 シンジもヒロシの両肩をつかんでマコトとキヨミの前に押し戻した。
「放せ!」
「キヨミに謝ってから、じっくり聞かせてもらうぞ。もし本当だったら、俺たちだって放っておけないからな」
 暴れるヒロシをノボルが下からにらむように見上げた。ノボルはヒロシの腕をしっかりつかんでいて、ヒロシがいくら振りほどこうとしても放さなかった。
 そして、ヒロシを強く押さえているシンジがヒロシの肩越しにマコトとキヨミに尋ねた。
「マコトとキヨミはどうする?」
「そうね、あたしも賛成よ。こんな言われっ放しは嫌だもの」
「あたしも。自分だけつらい思いをしてるなんて大間違いなんだから」
「じゃあ、全員同じ考えだな?」
 シンジの言葉に立ち直ったマコトとキヨミも賛成した。
「放せ!」
 ヒロシはその間もシンジとノボルを振りほどこうともがき続けたが、マコトに話し掛けられたミキも、ヒロシを助けてくれなかった。
「ウミダさん、そういうことですから」
『……分かったわ。でも、聞けば巻き込まれることになるのよ?』
「分かってます。でも、知りたいんです」
『そう……。じゃあ、続きは明日にしましょう。ここだと他の人もいるし、それ以外にもヒロシと話したいことがあるでしょうから』
 ヒロシのサングラスに映ったミキはヒロシに背を向けて答えた。
「おい! 俺は話すことなんてないぞ!」
『でも、謝ることはあるでしょ?』
 振り返ったミキは怒った顔でヒロシをにらんだ。
『それとも、本気で言ってるの?』
「…………」
 ミキは本当に怒っている様子で、ヒロシはそれ以上抵抗するのを止めた。ヒロシはミキの協力が必要だったし、ヒロシ自身、キヨミに言ったことを後悔してもいた。
「……分かったよ。
 さっきはひどいことをいって悪かったな」
「分かれば良いのよ。フジムラだけがつらい思いをしてるわけじゃないんだからね」
「…………」
 ヒロシはノボルにも見詰められて目をそらせた。身体は自由になっても、心はまだ捕まっている気分だった。

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