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マコトの協力を得たキヨミは張り切ってヒロシを待ち構えたが、肝心のヒロシはキヨミの期待を裏切って学校を休んだ。当然、キヨミが納得するはずなくて、どういうわけか四人でヒロシの家に押し掛けることになった。マコトはそれほど乗り気でなかったものの、それでも興味と不安が入り混じった気持ちでヒロシの家があるマンションを見上げた。 「……あれがリバーサイドマンションね」 「学校のすぐ近くだったんだな」 マコトが片手で放課後の日差しを遮りながらつぶやくと、傍らを歩いていたシンジも帽子の下からマンションを見上げた。 ヒロシが住んでいるリバーサイドマンションは十数階建ての高層マンションで、学校からは北側を東西に流れる川の反対側にあった。ヒロシはその中でも川側に建っているB棟の六階に住んでいるらしかったが、マコトたちのいる通りからはまだ見えなかった。 「ちょっと、何立ち止まってんのよ!」 「早くしないと置いてくぞ!」 マンションを見上げていた二人を振り返ったキヨミとノボルが口々に叫んで腕を振り回した。キヨミとノボルはマコトとシンジたちより二十メートル近く先を歩いていて、さっきから何度もせかしていた。 「早く!」 「今行くって! ……まったく、二人ともみっともなくて嫌になっちゃう」 「まあ、フジムラの家に行ったなんてちょっとしたニュースだからな」 「シンジは恥ずかしくないの?」 「俺から二人に『二人だけで行け』って言ってやろうか?」 「いい。約束したんだし、二人がやり過ぎないように見張ってなきゃ」 マコトはシンジを見ようともしないで二人を追った。シンジもすぐに足を速めたが、マコトは一度もシンジを振り返らなかった。 そして、遅れていたマコトとシンジが二人に追い着こうとすると、互いに牽制しながらマンションの敷地に入り掛けていた二人が突然石積みの門柱の陰に隠れた。 「ちょっと、どうしたの?」 「隠れて!」 「え?」 「いいから早く隠れて!」 ――?? 振り返ったキヨミが鋭い口調で指示して、マコトとシンジもわけが分からないまま物陰に隠れた。シンジはすぐ近くの植え込みの陰に隠れたが、マコトはキヨミとノボルがいる門柱の陰に隠れた。そして、様子をうかがおうとしているキヨミの腕を引っ張って説明を求めた。 「一体どうしたっていうのよ?」 「フジムラが出てきたの」 「え?」 「フジムラが家にいるところを押し掛けて、家に上げてもらうつもりだったのに、フジムラが出てきちゃったら都合悪いじゃん」 「そんなこと考えてたの!」 「し! ねえ、フジムラはあたしたちに気付かなかったでしょ?」 「ああ、俺たちには気付かないで反対側の門に向かってる」 「じゃあ、気付かれないうちに場所を変えなきゃ」 ノボルと情報を確認したキヨミはヒロシに気付かれないようにノボルとマンションの敷地に入った。反対側の門はさらに百メートルくらい先で同じ通りに面していたから、残されてしまったマコトとシンジも二人に呼ばれてマンションの敷地に入った。 「……ちょっと、これからどうするつもり? まさか、フジムラが戻ってくるまで待ってるつもりなの?」 「まさか、尾行するに決まってるじゃん」 「は!?」 「だって、フジムラは今日学校を休んだんだよ? それなのに、今から外出なんて絶対おかしいじゃん」 キヨミは合流したマコトにきっぱり言い切って、反対側の門に向かうヒロシをにらんだ。キヨミは本気な様子で、マコトが止めたりしたら逆に問い詰められそうな感じだった。 そのため、マコトが言葉に詰まっていると、ヒロシの様子をうかがっていたノボルがキヨミの考えに賛成した。 「おい、早くしないと見失っちまうぞ」 「そうね、早く行かなきゃ」 キヨミもすぐにマコトを忘れた様子でヒロシを追い掛け始めた。キヨミはマコトが反対するとはまったく考えてないようだったし、ノボルも完全に楽しんでいる様子だった。 「……どうする?」 「付き合うしかないでしょ。このまま放っておけないもの」 マコトはシンジに答えてトートバッグからつばの広い白色の帽子を取り出してかぶった。かえって目立ってしまう気もしたが、少なくとも顔は分からなくなるはずだった。 「シンジはそれで大丈夫ね」 「ああ、サングラスも掛けた方が良いか?」 「止めた方が良いんじゃない? そのサングラス、あんまり似合ってないもの」 「そうか……」 シンジは少しだけ残念そうにサングラスを羽織っているシャツの胸ポケットに戻した。 そして、シンジが少し先に歩き始めたマコトに追い着いて並ぶと、二人の五十メートルくらい先を歩いているヒロシを見ていたマコトが尋ねた。 「フジムラはどこに行くつもりなんだろ?」 「近くだと良いんだけどな」 「でも、『近く』ってどこ?」 「コンビニとか、せいぜい駅までってとこだな」 今日も黒づくめらしいヒロシはちょうど反対側の門を出たところだったが、コンビニならそのすぐ先の交差点にあった。 「コンビニだったらキヨミが怒りそうね」 「でも、それは大丈夫そうだぞ。ほら、交差点を右に曲がった」 「じゃあ、駅までだとしたらどこだと思う?」 マコトはサングラスを掛けて交差点へ急ぐキヨミとノボルの二人を見ながら、駅まで続く通りを思い浮かべた。でも、通りの両側に並ぶマンションやアパートが思い浮かぶばかりで、店はほとんど思い浮かばなかった。 「……もしかして、駅まで行ったりして」 「かもな」 「シンジは電車賃持ってる?」 「ああ。マコトに貸せるくらい持ってるぞ」 「だったらいいの。あたしも自分の分くらいだったらあるから」 シンジがケイタイを見せようとするのをマコトが遮ったところで、マコトのトートバッグに入れてあるケイタイが鳴った。 「キヨミ、どうしたの?」 『マコトたちは反対側の通りから駅に先回りして!』 「いいけど、無茶しないでよ」 『分かってるって! マコトたちこそ逃がしたりしないでよ!』 キヨミが興奮した声で電話を切って、マコトはあきれた様子でシンジの顔を眺めた。 「……だって」 「駅まで先回りするとなると、急がないとな」 「そうね。フジムラは意外と歩くの速いから、トラムに乗っても良いかもしれない」 マコトはシンジの返事を聞くより先に足を速めた。ヒロシの足が速いのは昨日の付き添いではっきりしていたし、もしキヨミとノボルに気付いたらなおさらだった。 やらなければならないことのお陰で気力が少し出てきたマコトは続いてまだ手に持っていたケイタイに音声で命令した。 「駅行きの一番近いトラムを検索して」 『一番近い駅行きのトラムはC一二五七号車です。現在の乗車率は四十六パーセント、現在位置で乗車依頼した場合は三分以内に乗車できて、八分以内に駅に到着できます』 「だったら依頼して」 『分かりました。トラムのC一二五七号車に乗車依頼します。乗車場所はリバーサイドマンション西門前です』 若い男性の声で答えるケイタイをトートバッグにしまって、マコトはシンジと一緒に門を出たところで並んだ。今朝は一緒に登校しなかったから、マコトがシンジと二人きりになるのは一日半ぶりだった。 「……そういえば、ケイタイでトラムの乗車依頼をするシステムって二百年以上昔に始まったらしいな」 「へえ、そうなの」 「昨日、ノボルたちとトラムについて調べるって決めたから、フジムラのことと一緒に少し調べたんだ」 「そう」 マコトはシンジを見ようとしないまま相づちを打った。やって来るトラムが気になったし、マコトはトラムそのものには興味なかった。それに、マコトはこのところシンジから話を切り出されるのが少し苦痛になっていた。 でも、シンジはマコトがトラムのやって来る方向を見ているのに、さりげなさを装ってマコトにだけ聞こえるように話を続けた。 「なあ……、昨日のこともそうだけど、少し無理してないか? 中学でまで無理することなんてないじゃないか」 「…………」 「夏休みまではまだ慣れないからだって思ってたけど、キヨミにぐらいもう少し素直になれよ。親友なんだろ?」 シンジは最後の部分を少し強い口調で言った。シンジにしてみれば心配で仕方ないのだろうが、マコトは向き直って言い返したい気持ちをぐっとこらえた。 (止めてよ。そんな子供みたいなこといつまでもできるわけないじゃない) マコトは心の中でシンジに反論した。幼なじみのシンジだけが知っていることだったが、マコトは自分が悪いと思われて嫌われることをひどく恐れていた。だから、強硬な態度をとったり、面倒を見たりしていて、今さら止められなかった。 「……マコトが俺に本心を打ち明けたくないなら、それは別にいいけど、そんなに無理しなくたって誰もマコトを嫌ったりしないさ。少なくとも俺は絶対にしないし、キヨミだって大丈夫だと思うぞ」 「…………」 「マコト――」 「来た」 マコトはわざとシンジの言葉を遮って、やって来るトラムを見付けた。トラムはヒロシが曲がった交差点を右折したところで、それほど広くない通りの真ん中を人が走るくらいのゆっくりした速さで進んでくる。 「…………」 シンジも振り向こうとしないマコトの気持ちに気付いたようで、それ以上話を続けようとしなかった。そして、二人は黙ってトラムがやって来るのを待ったが、マコトには一分に満たない短い時間がひどく長く感じられた。 |
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