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 私は仮想環境部中をひっくり返す勢いで探して、ついにパックが残したらしいものを見付けた。
「斉藤さん、チェックはまだ!?」
『もうすぐです。
 ……五、四、三、二、一、終了しました。私がチェックした限り、危険なファイルではないようです』
「じゃあ、展開して」
『かしこまりました』
 発見したファイルは目に見えないように細工されて、机の引き出しの中に隠されていた。名前も目立たないように工夫されていたから、作成日が初めてパックに会った日でなければ気付かないくらいだった。
『……動画ファイルのようですね』
「他にファイルはない?」
『特にないようです』
「ないの!?」
『はい。他にもまだ隠されたファイルがあるということなのでしょうか?』
「……斉藤さんは探すのを続けて。私は見てみるから」
『かしこまりました。パソコンとケイタイのどちらで見られますか?』
「ケイタイ。
 でも、後は自分でやるから斉藤さんは早く探して」
『かしこまりました』
 私は斉藤さんをせかして、掌の上のメモリーカード――圧縮ファイルを意味するメモリーカードとは色違い――をにらむように見詰めた。
「……これで関係なかったら絶対許さないから」
 私はインターネットに接続し直すためのソフトがほしかったのに、動画ファイルを残していくなんてパックは一体どういうつもりなのかと思った。パックがここにいれば大声で怒りたいくらいだったけど、私は我慢してケイタイに動画ファイルを読み込ませた。
 そして、すぐに再生すると、動画ファイルはパックからのビデオメッセージだった。
『……やあ、望。
 このメッセージを見付けたということは研究所中が大騒ぎになってるんだね。そして、望は僕かチョコを助けようとしてるんだろうけど、どっちを助けようとしてるのかな?』
 ケイタイ画面に映ったパック――いつもの白いサマージャケット姿――は笑いかけてきて、いきなり私の気持ちを逆なでした。
「パック!! ふざけてるんだったら捨てるよ!!」
『まあまあ、落ち着いて。あんまり怒ると研究員たちに気付かれるよ?』
「!」
『研究員たちに気付かれないように目くらましはしてるけど、徹底的にチェックされるとばれる可能性も高くなるからね』
 パックは楽しんでいるとしか思えない態度で注意して、私はそれ以上の怒りを飲み込んだ。とてもビデオとは思えない反応の良さで、本当はテレビ電話みたいにつながってるんじゃないかと思えてならなかった。
「……だったら早く教えてよ。どうすればチョコを助けられるか知ってるんでしょ?」
『焦らない焦らない。僕やチョコ、新型ウイルスのことなら心配いらないよ。この騒ぎは全部電子空間を独立させるための騒ぎなんだから』
「え?」
『本当は格好良く「独立戦争」って言いたいところだけど、一方的すぎて戦争’っていう感じじゃないだろうけどね』
「……じゃあ、外に出られないのはパックのせいなの?」
『それは違うさ。僕たちは大学のシステムの一部を僕たちの空間として占拠しただけで、望が外に出られなくなったのは研究所の判断だよ』
「だったら早く教えて。チョコが本当に安全か確かめさせてよ」
『僕を信用してくれないのかい?』
「私はこの目で確かめたいの」
『信用ないなあ』
 パックは大げさなくらいに肩をすくめた。パックは私に人としても信じてほしいんだろうけど、私は直接自分の目で見なければ信じられなかった。
「できないわけじゃないんでしょ?」
『もちろんできるさ。でも、今は無理だよ』
「どうして?」
『百パーセントばれるからね』
「そんなのごまかせばいいじゃない」
『無理だよ。研究所のロボットをジャックするのは簡単だけど、人間の肉眼まではごまかせないからね』
「もう! パックは『世界最強』なんでしょ!」
 期待していた私は我慢できなくなってパックをなじった。「世界最強」なんて口先だけだと思った。
「もういい! 自分でなんとかする!」
『望、落ち着いて。
 今無理にやろうとすればセーフモードにされるよ』
「え?」
 私は切ろうとしたビデオに視線を戻した。
『研究所のロボットをジャックすれば、研究員たちはサイバー攻撃が研究所内にまで侵入したと思うよ。そうなれば、望が嫌がってもセーフモードにするのをためらわないだろうね』
「…………」
『それは望も嫌だろ?』
「……じゃあ、どうすれば良いのよ」
 私はケイタイを強く握りしめた。悔しかったけど、パックの言うとおりだった。
『望、チョコは大丈夫だし、すぐに好きなだけ会えるさ。騒ぎはそんなに続かないから、研究所もすぐに接続し直すって』
「……分かった」
『それに、望には電子空間を独立させるまでこのビデオとあげた指輪を大切に守っててほしいんだ。この二つは大切な鍵になってるからね』
「『鍵』?」
『そう。僕がこの騒ぎの間だけ安全な場所に隠したファイルやソフトにアクセスするための鍵だよ』
「パックは持たないの?」
『望に持っててほしいんだ』
「え?」
『言ったろ? 僕は望に“一緒に来てほしい”って』
 ケイタイ画面のパックに見詰められて、私は赤くなった。パックに誘われたときのことを思い出して、私もパックが好きなんだとはっきり分かった。
「……分かった。このビデオと指輪を守ってれば良いのね?」
『ありがとう。引き受けてくれてうれしいよ』
「その代わり、長引かせないでよ」
『分かってるって。うまくやるよ』
 パックはすっかりうれしそうな表情で親指を立てた。少しキザで偉そうだったけど、こんなに子供っぽい笑顔もできるんだと思った。
『じゃあ、残念だけど、望もそろそろ研究員たちのところに戻った方が良い。特に僕との関係は気付かれたら面倒だからね』
「分かってる。パックこそ私や研究所のことをばらさないでよ」
 私も笑顔で言い返して、ビデオメッセージが終わった。
「……フフフ」
 うまく丸め込まれてしまったのだとしても、私は別に構わなかった。パックに言われたとおり、私が今外に出ることは不可能だったし、パックに託された鍵を守るというやることができたからだ。
「これで独立させられなかったら大バカよね」
 私はパックを知らないことになっているのだから、研究室に戻ったら何て言おうと思った。
「その前に、斉藤さんは何か見付けたかな?」
 私はケイタイをしまって斉藤さんを呼んだ。
「斉藤さん、他に見付かった?」
『いえ、特に見付かっていません。現在は調査範囲を拡大して調査中です』
「そう」
『お嬢様は動画ファイルをご覧になって何か手掛かりを見付けられましたでしょうか?』
「うううん。パックも外に出るのは止めた方が良いって」
『では、調査はどういたしますか?』
「一応続けて。パックのことだから何を隠してるか分かんないしね」
『かしこまりました』
「あ、後、このビデオメッセージとパックにもらった指輪、それに、チョコのアバターは何があっても最優先で守ってね」
『かしこまりました。お嬢様が今ご覧になった動画ファイルとお嬢様が左手の小指にはめられている指輪、それにチョコのアバターでございますね』
「そう。斉藤さんにはいつも無理ばっかり言ってるけどお願いね」
『お気になさらないでください。私はお嬢様のサポートをすることが役目ですので、お気持ちだけで十分でございます』
「でも、斉藤さんにはこの間ひどいこと言っちゃったから」
『……では、ありがたくちょうだいいたします』
 パソコン画面の斉藤さんは深々と頭を下げた。あまり謝られることには慣れてない様子で、もっと堂々と受けてくれて良いのにとも思った。
「それと、やっぱり美穂姉に会うから、何か見付けたら気付かれないように教えて」
『かしこまりました。井上様には「確認が長引いているので遅れる」と連絡してありますのでお気を付けください』
「ありがとう」
 私は斉藤さんに感謝して研究室に戻った。視野を切り替えてからカメラの使用を控えるように言われていたことを思い出したけど、今さら守っても仕方ないとごまかしてしまった。

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