楽屋の話

作 かば

 サトルがアリスの待つ控え室に戻ってきた。
「衣装は返してきましたよ」
「先生は何て言ってた?」
「『とにかく早く診てもらってきなさい』だそうです」
「怒ってなかった?」
「怒ってませんでしたけど、苦笑してましたよ」
 心配して身を乗り出すアリスに、サトルも苦笑して答えた。
「まったく、教授は悲しんでましたよ。『なんで俺を呼んでくれないんだ』って」
「だって、パパはサトルじゃないもの」
 アリスは少し気分を害したように言い返した。せっかくサトルに見てもらいたくて呼んだのにとサトルを責めている感じでもあった。
「それより、サトルの感想はあれだけなの?」
「他に言ってほしかったんですか?」
「せっかくの舞台衣装だったんだから、もっとほめてよ」
 アリスの荷物を確認しながら答えるサトルの背中に、アリスは不満をぶつけた。アリスはサトルが大人っぽい舞台衣装を着たアリスを見て、アリスを見る目が変わることを期待していたらしかったが、サトルは変えようがなかった。
 でも、それを口にすればアリスを怒らせるだけだったから、サトルは答えないでアリスの前に移動した。
「さあ、準備ができましたから行きましょう」
「嫌。サトルがもっとほめてくれるまで動かない」
「そんなこと言って、ケガがひどかったらどうするんですか」
「言って」
 アリスはサトルが手を差し出しても拒否した。
「早く言って」
「とてもきれいでしたよ。最初に見たとき、アリスだと気付きませんでした」
「見直した?」
「ええ。びっくりしました」
「じゃあ、だっこして運んで」
「え?」
「見直したんだったら、それくらいしてくれるでしょ」
 アリスは当たり前のように要求した。サトルは一瞬戸惑ったが、アリスは今までと扱いを変えるように要求していた。
 サトルは少しだけアリスの目を見て、アリスの痛めた右足首も見てから答えた。
「……分かりました。その代わり、だっこだけですよ」
「そんなー。『見直した』って言ったじゃない」
「別に、嫌なら良いんですよ」
「うう……」
 サトルに突き放されたアリスは恨めしそうにサトルをにらんだ。
 でも、サトルが譲歩しようとしないのを見て、アリスはしぶしぶ両手をサトルに差し出した。
「お姫様だっこじゃなきゃ嫌だからね」
「分かってます」
 待っていたサトルは荷物を肩に移して、アリスを静かに抱き上げた。アリスは不満なようでも、サトルは自分が理解できないことを無理に演じたくなかった。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん……」
「嫌ならいつでも止めて良いんですよ」
「違うって!」
 アリスは顔を上げてサトルに反論した。
「もう! 次の劇ではサトルに『好きだ』って絶対言わせるんだから!」
「ちょっと、危ないですよ!」
 サトルは突然身体を動かしたアリスを注意した。アリスはサトルが思っていたより大きくなっていて、サトルは一瞬だけアリスが舞台衣装を着た大人の姿に見えた。


 内容としても『春の嵐』に続く、アリスとサトルが登場する4本目の作品です。
 ほのぼのした雰囲気でなくなってしまいましたが、サトルがどう思っているかは書けたと思います。
(09/04/27 制作)

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