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作 かば
研究室のドアの前にアリスが立ち止まった。
電子空間でリポートをまとめていたサトルはすぐに気付いて、身体のモードをアクティブに切り替えた。
「いらっしゃい」
「あ、気付いちゃった?」
「気付きますよ。一体、今日は何の用ですか?」
サトルは声だけでアリスを迎えながら、大きな背もたれの付いたバッテリーチェアの中で伸びをするように身体を動かした。今まで眠っていたように見えたサトルは身体の状態を確認して、いつものように立ち上がった。アリスは知らなかったが、サトルはちょうどリポートに行き詰まっていたところだった。
そして、サトルが研究室に入ってきたアリスにイスを勧めると、アリスはすぐに座らないでサトルの顔をまじまじと見詰めた。
「どうかしましたか? 俺の顔に何か付いてますか?」
「うううん、サトルの寝顔ってどんな感じかなって思って」
「別に、目をつむっているだけですよ」
「夢は見るんでしょ?」
「“夢”というか、活動中の情報の再処理ですけどね」
「あたしの夢は見る?」
「ときどき見ますよ」
「良かった〜」
「?」
何が良かったのか理解できないでいるサトルをよそに、アリスはうれしそうにイスに座った。今日のアリスは一段とうれしそうな様子で、淡いピンクの春らしい装いのほかにも理由があるようだった。
「一体、何の用なんですか?」
「ジャーン!」
アリスは勢い良く白いポシェットから手のひらより少し大きな紙片を取り出した。
「サトルにプレゼントよ」
「何ですか?」
サトルはアリスが差し出した紙片を少し警戒するように受け取りながら、テーブルを挟んでアリスと向かい側のイスに腰を下ろした。二つに折られた紙片はシールで閉じられていて、アリスの手描きらしい装飾が施されていた。
「アナログ紙とは珍しいですね」
「いいから早く開けて」
「分かりましたよ。……って、これはこの前断った発表会の紹介状じゃないですか」
「そうよ。ここまでしたんだから、サトルだって断れないでしょ」
アリスは驚いているサトルを得意そうに見詰めた。事実、すべて手作りの招待状はかなり手が込んでいたから、これでも断ったなら、あとで教授にチクチク言われそうだった。
「来てくれるでしょ?」
「……分かりました。でも、お友達に俺のことを“恋人”とか、“好きな人”とか、“付き合ってる”とか説明するのはナシですからね」
「いいじゃない。他の人の言うことなんて気にしなければいいでしょ」
「そういうわけにいきませんよ。この間一緒に映画に行ったときだって、冷ややか目で見られたのは俺なんですから」
「だったら、今度からあたしがアバターを使おっか?」
「止めてください。それこそ犯罪じゃないですか」
サトルはうんざりしたように頭を振った。アリスがいくら背伸びしてアバターを使おうと、アリスはまだツインテールが良く似合う小学生だった。
「……まったく、俺には理解できません」
「何か言った?」
「アリスの考えていることが理解できないって言ったんですよ」
「だったら、理解できるようにどっか遊びに行きましょ。今からだったら、遊園地もまだ間に合うんじゃない?」
アリスはサトルに嫌な顔をされても、まったく気にしないで誘った。とてもかわいらしい女の子なのに、こういうときの押しの強さは大人顔負けだった。
「ねえ、行こう?」
「止めときます。発表会までにリポートをまとめておかないと教授に怒られますから」
「じゃあ、リポートがまとまるまで待っててあげる」
「え?」
「そうすれば、サトルの寝顔だって見られるでしょ?」
「まったく……、本当に理解できません。まだ時間が掛かりますから、途中で邪魔しないでくださいよ?」
サトルはため息をつきながら立ち上がって、うれしそうにしているアリスに紅茶を入れようと動き始めた。
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アリスとサトルが登場する3本目の作品で、ようやくアリスが小学生だと説明できました。
未来史シリーズの設定もいくつか盛り込めましたし、4本目の作品も実現させたいです。
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(09/03/22 制作)
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