年上の人

作 かば

「ねえ、サトルはあたしのこと、好き?」
 アリスはサトルに寄りかかりながら尋ねた。二人は公園の木陰に並んで座っていて、サトルはさっきから本を読んでいる。アリスはそれが不満でならなかったが、サトルのお供でついてきた以上、あまり勝手なことは言えなかった。
 でも、本に夢中なサトルはまったく気付かなかった様子で、アリスはサトルに身体をぶつけてからもう一度繰り返した。
「ねえ、サトルはあたしのこと、好き?」
「え、何ですか?」
「だから、サトルはあたしのこと、好き?」
 アリスはサトルに寄りかかりながら、サトルの顔を下からのぞき込むように尋ねた。アリスとしてはかなりかわいく尋ねたつもりだったが、サトルの返事はいつものようにつれなかった。
「またその話ですか。俺に恋愛は分からないって言ってるじゃないですか」
 サトルは聞き分けのない子供に言い聞かせるように読んでいた本を閉じた。
「何度も言いますけど、大体、何で俺なんですか? 機人で設定年齢がずっと上の俺じゃなくたって、他にいくらでもいるじゃないですか」
「あたしはサトルが好きなの」
「だから、それが分からないんですよ。学校にだって、他に人がいないわけじゃないんでしょう?」
 サトルはアリスの気持ちがまったく理解できない様子だった。
 でも、アリスも何度も言われていることだったから、答えないまま寄りかかっていた身体をずらして、サトルのひざに頭を乗せた。機人であるサトルのひざは人間より少し固かったが、人間と同じように温かかった。
「温かい」
「そりゃ、俺だって生きてますからね。それより、本当に他に人がいないわけじゃないんでしょう?」
「もちろんいるわよ。だけど、あたしはサトルが良いの。サトルじゃないと嫌だし、他の子なんて興味ないの」
「まったく、俺には理解できません」
 サトルはあきらめた様子で閉じていた本をもう一度開いた。アリスの頭の上に影が落ちて、時折、紙のめくれる乾いた音が聞こえた。
 アリスはサトルがまた相手をしてくれなくなってさびしかったが、その一方で幸せな気もした。柔らかな日差しとサトルの温もりが心地良かったし、サトルに守られているという安心感があった。
「ねえ、お話して?」
「え?」
「良いでしょ?」
 本とサトルの身体の間から、アリスはサトルの顔を見上げた。伊達眼鏡を掛けているサトルの顔は人間とまったく変わらなくて、恋愛を理解できないということの方が理解できないくらいだった。
「俺は読書中なんですよ?」
「少しだけで良いから」
「まったく……、教授は何を教えてるんですか?」
「パパは喜んでお話してくれるもの」
「…………」
 サトルはしれっと答えるアリスの目を少し見詰めてから、再びあきらめように読んでいた本を閉じた。でも、本を脇に置きながら、ぐちるようにアリスに文句を言うのを忘れなかった。
「ついてくるとき、『俺の邪魔をしない』って言いませんでしたっけ?」
「三十分くらいは邪魔しなかったでしょ?」
 アリスはいたずらっぽくサトルに言い返した。
「早くお話して。今度は女の子が王子様を助けるお話が良い」
「分かりましたよ」
 すっかりあきらめた様子のサトルはアリスにひざまくらしたまま話し始めて、アリスは目を閉じてサトルのお話に耳をすませた。


 『教授の娘』と時間的なつながりはありませんが、なぜ未来史シリーズに入っているかを説明できました。
 次はどんな作品にするか、少しずつ考えたいです。
(09/02/21 制作)

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