教授の娘

作 かば

「サトルー、いる?」
 アリスが入り口から呼び掛けると、研究室の奥から若い男性の声が聞こえた。
「……はーい、今行きまーす」
 研究室の奥から現れたのはやせ形で眼鏡を掛けた二十代半ばくらいの青年だった。ちょうど実験データの解析か何かをしていたところらしく、周囲を確認する視線が定まってなかった。
 そして、サトルと呼ばれた青年は入り口に一人だけでいるアリスの姿を確認すると、少しだけ落胆した様子でアリスを迎えた。
「……どうぞ」
「ちょっとー、せっかく来たのにそんな顔しないでよ」
「また一人で来たんですか?」
「良いでしょ。パパの許可はもらってあるんだから」
 アリスはさっさとテーブルに向かうサトルを追いながら言い返した。
「それより、今度の休みに映画に連れてってよ」
「先週、教授と観に行ったって言ってたばかりじゃないですか」
「それとは違うのだってば」
 サトルに追い着いたアリスは、サトルに勧められたイスに座りながら訴えた。サトルはアリスに背を向けてアリスに出す紅茶を用意し始めていたが、アリスはサトルが承諾してくれるまで帰らないつもりだった。
「今度の休みはパパもママも用事があるし、ねえ、良いでしょ?」
「ダメです。データの解析は今度の休みまでに終わりませんから、他の人と行ってください」
「サトルと行きたいの」
「ダメなものはダメです。大体、ここに来てばかりじゃないですか」
「サトルと行きたいんだってば」
 サトルに振り返ってもらえないアリスは我慢して繰り返した。アリスがこんなに訴えているのに、サトルもアリスの両親も本気にしてくれないのがひどく腹立たしかった。
「ねえ、良いでしょ?」
「困ったな……」
 茶葉の蒸らしが終わるのを待っていたサトルが、アリスに振り返りながら自分の後頭部をかいた。アリスが頑固なことはサトルもよく知っていたから、本当に困っている様子だった。
 でも、サトルは少し考えてからアリスに答えた。
「……分かりました。じゃあ、再来週の休みに行きましょう。迎えに行きますから、それで我慢してください」
「やった!」
「ちなみに、その映画は再来週までやってるんですか?」
「うん!」
 サトルの答えに、アリスは上機嫌でうなずいた。本当は来週で終わってしまう映画だったが、サトルと二人だけで映画に行ければ大成功だった。
「あと、迎えにくるときは、この間あたしが選んであげた服を必ず着てきてよ」
「分かってます。俺のセンスは信用できないんでしたよね」
 サトルは紅茶を注いだカップをアリスの前に置いた。
 今は年の離れた妹くらいに思われているアリスだったが、早く大人になって、必ずサトルと結婚すると決めていた。


 なぜ未来史シリーズに入っているのか描写できないままになってしまいましたが、設定はちゃんとできています。
 続編の構想もできていますし、こちらも制作できればと思います。
(09/01/28 制作)

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