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作 かば
「おい、早く会議室に来ないか!」
三橋は屋上に出るなり呼び掛けた。
「他のメンバーは全員そろってるんだぞ!」
怒った口調で呼び掛けながら、三橋は屋上の柵にもたれ掛かっている同僚の男性研究員に近寄っていく。三橋が怒っているのは探しに行かされたためだけではなさそうな感じだった。
「大体、お前はこのプロジェクトの重要性が分かっているのか?」
「……聞こえてるよ」
「だったら返事くらいして、さっさとこっちに来い!」
「別に俺がいなくたって変わんないだろ?」
男性研究員――名前は“川上”と言う――は柵に寄り掛かったまま振り返って動こうとしない。若く真面目な三橋と違って、川上は同年代と思えないくらいひどく投げやりな態度だった。
「そういうことじゃなくて、全員で目的意識や問題を共有することが大切だって言われてるだろ!」
「悪いけど、そういうの苦手なんだ」
「おい!」
また向き直ってしまった川上の肩を乱暴につかんで、三橋はもう一度怒った。
「不満があるなら会議ではっきり言え! 辞めたいならさっさと辞めれば良いだろ!」
「……三橋は本当にこのプロジェクトが良いことだと思ってるのか?」
「何?」
川上をむりやり向き直させた三橋は川上の顔を見詰めた。肩をつかまれた川上はあきれた表情を浮かべながらも、三橋をからかっているわけではないように見える。
「……どういうことだ?」
「言葉のとおりさ」
「……川上はこのプロジェクトが世界のためにならないとでも言うのか?」
「まあ、あれだけの巨費を実際に使えるとなれば、少なくとも俺たちのためにはなるだろうな」
「…………」
「でも、三橋もすべての人類を宇宙に移住させられるなんて本気で思ってるわけじゃないだろう?」
「……まあな。
だが、人口問題や環境問題を改善することはできるし、万が一、地球が危険になった場合にも人類や生命が生き延びることができるはずだ」
渋々川上の言葉を認めた三橋はすぐに反論した。三橋はこの野心的なプロジェクトの意義を認めていたし、人類や生命にとって必要なことだと信じていた。
「三橋は純情だな」
「何だと!」
「自然増にも満たない年間百万人ぽっちの移民で人口問題が改善するものか。それに、それだけの移民を可能にするための軌道エレベーター、マス・ドライバー、スペースプレーン対応空港がどれだけ環境を破壊するか考えたことないだろ」
「…………」
「軌道エレベーターの設置場所は赤道直下に限られるが、どこも貴重な自然が残っているところばかりだ。マス・ドライバーも電源を考えるだけで相当なものだし、大型のスペースプレーンを運用するためには一万メートル級の滑走路が必要になるんだぞ?」
「……じゃあ、川上はプロジェクトを止めろというのか?」
「そうは言ってないが、そこまでして人間を宇宙に移民させる意味があるのかって言ってるのさ」
「…………」
川上の目に真剣なものを感じて、三橋は川上から手を離した。三橋も一度も考えたことがないわけではなかったが、移民の必要性を疑ったことはなかった。
そして、そんな三橋を眺めながら、川上は改めて柵に寄り掛かって話を続ける。
「大体、本気で生き延びさせたいと思ってるなら、火星や小惑星帯くらいに移民させなきゃダメさ。月の裏や地下ならなんとかなるかもしれないが、巨大隕石が衝突するとしたら地球周回軌道や公転軌道もどうなるか分からないからな」
「……それくらい分かってる」
「じゃあ、俺たちが想定している技術で火星や小惑星帯への年間百万人の移民が現実的だと思うか?」
「……無理だろうな」
「だったら、どうして移民させなきゃならないんだ?」
「…………」
「人間や生命を生き延びさせたいだけなら、SFみたいに地球が危険になったと分かってからだって遅くないんじゃないか? 別に、何万人も移民させなくたって良いじゃないか。
いや、微生物を送り出すだけにすればもっと簡単だな。カプセルに詰め合わせて打ち上げるなら三日もあれば十分だろう」
川上は自分でもあきれたように笑って、三橋を見返す。
確かに、人類や生命を生き延びさせるだけなら、人類のすべてを移民させなければならない理由はどこにもなかった。
でも、三橋はどうしても納得しきれない様子で川上に反論する。
「……しかし、だからといって人類の大半を地球を一緒に滅亡させるのか?」
「かもな」
「……川上はそれで平気なのか?」
「ああ。どっちにしろ俺が移民できるわけじゃないからな」
川上は静かに三橋に答えた。
「…………」
「なあ、俺が『純情だな』って言った理由が分かるだろ?」
「……ああ」
三橋は考えれば考えるほど、プロジェクトが根本から崩壊していくようだった。三橋は川上から離れて柵にもたれ掛かり、川上は何も言わずに三橋を眺めた。
技術的な問題は解決できても、経済的、政治的な問題が大きすぎた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
三橋はその後も柵にもたれ掛かって悩んでいるようだったが、ふいに顔を上げて川上に尋ねた。先に川上が柵に寄り掛かっているのを止めたのだ。
「……行くのか?」
「一応、給料をもらってる身だからな」
「そうか……」
「お前もすぐに来るんだろう?」
「ああ……」
三橋はまた柵にもたれ掛かって弱々しく答えた。三橋の表情はひどく思い詰めたようにこわばっている。
「……あまり考えすぎて壊れるなよ?」
「分かってる。俺はお前よりエゴイストだからな」
「ハハ……。
お前の趣味で移民させるっていうのも良いんじゃないか?」
川上は少しだけ笑って、先に屋上を離れた。
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具体的に考えてみると、宇宙移民も有人人型ロボットもあまり割の合うものではないようです。
ですが、“300年後の世界”は捨てたくないので、宇宙移民を現実的なものとできるよう、検討を続けたいと思います。
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(07/05/23 制作、08/12/01 再修正)
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