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作 かば
一、妻から夫へ
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「洋さんへ
いつもみさきの成長記録をありがとう。
みさきはもう一人で立つようになったんですね。添付の立体映像を見て驚いてしまいました。この前会ったときよりずっと大きくなっていましたね。このままだと私が今度帰ったときには走り回っているかも。
この前みさきに会ったときから本当にもうずいぶん経ってしまったんですね。すっかり大きくなったみさきの映像を見ていたら、今すぐにでも会いに帰りたくなってしまいました。
でも、そんなことを言ってはいけませんね。洋さんとみさきにわがままを許してもらって来ているのに、そんなことを言ったらしかられてしまいますものね。
寂しいときは、他の星と同じようにしか見えませんけど、二人がいる地球を眺めて、そして、建設現場から目の前に見える木星を見て慰めています。
建設現場から見える木星は本当にすごいんですよ。古くから天空の王に例えられているだけあって、間近に見る木星は圧倒的です。とにかくその姿に圧倒されてしまって、他に何と言ったら良いか分かりません。帯も縞も、それに大赤斑も少しずつ形を変えていて、一日中見ていても見飽きることがないんです。本当に二人にも見せてあげたいです。
ごめんなさい。夢中になって少し書き過ぎてしまいました。
いつもみさきの面倒を見てくれてありがとう。私も洋さんと一緒にみさきの側にいたいのですが、宇宙都市の本体建設工事は今が大詰めです。初めて任された現場ですし、もう一段落するまで帰れそうにありません。みさきの側にはいられませんけど、「この宇宙都市はお母さんが造ったのよ」ってみさきに自信を持って言えるようしっかり働こうと思います。
私の分もみさきを抱き締めてください。
みさきが私のことを忘れないように。
美穂より」
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二、父から娘へ
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「みさきへ
あの最後の手紙の後、母さんが事故で死んでしまったことはもう知っているね。あの時みさきは一人で立てるようになったばかりだった。
あの時から父さんは宇宙をできるだけ離れ、みさきと二人で暮らしてきた。そのことがみさきにとって本当に良かったかは分からない。ただ、父さんは母さんが死んだ宇宙と縁を切ったつもりだった。
みさきもそんな父さんの気持ちを知ってか知らずか、今まで父さんに一度も宇宙のことを言って困らせたことはなかったね。
だから、みさきが宇宙で働きたいと言ったときは驚いた。父さんは反対した。みさきに断念してもらいたいと思った。みさきにまで母さんと同じような目に遭ってほしくなかった。けれど、みさきはどうしても宇宙で働きたいと言って、とうとう宇宙に行ってしまったね。
でも、ここでまたそのことを持ち出すつもりはないから安心してほしい。みさきの人生はみさきのものだ。みさきがあれだけ良く考えて決めたことなのだから、父さんはどんなに心配でも、黙ってみさきを見守るしかない。
父さんがこの手紙を書いたのは、みさきに感謝しておきたかったからだ。みさきが気が付いたように、父さんも本当は宇宙がとても好きだ。みさきが宇宙を好きなのと同じくらい、いや、実際に宇宙に行ったことがある分みさき以上に宇宙が好きかもしれない。
今は「母さんは宇宙を好きでいてほしいと思っているはずだ」と思えるようになったけれど、みさきに言われるまでは思えなかった。母さんが死んだ宇宙を好きでいるなんて、母さんに対する裏切りのように思えて認められなかった。
でも、みさきに言われて初めて、「母さんは宇宙を嫌いになるのではなく、好きでいてほしいと思っているはずだ」と思えるようになったのだよ。みさきは父さんに母さんの気持ちを気付かせてくれた恩人でもあるんだ。
思えば、父さんが母さんと出会ったのも宇宙がきっかけだった。母さんも、今まで何度も話したとおり、宇宙がとても好きだった。そのころから宇宙で働いていたくらいだった。
だから、みさきが宇宙で働きたいと言ったとき、父さんは反対しながらも内心親子だなと思った。あのころの母さんそっくりだった。
宇宙は危険だが、それ以上に素晴らしいところだ。父さんは喜んで送り出してやれなかったけれど、みさきが素晴らしい人生を歩むことを願っているよ。
父より」
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三、娘から父へ
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「お父さんへ
お元気ですか。
私はあこがれの宇宙で働くために毎日充実した生活を送っています。
お父さんからの手紙読みました。お父さんの気持ちを初めてはっきり知ることができた気がします。お父さんに相談しないで勝手に宇宙で働くことを決めてしまってごめんなさい。後悔はしてないけど、少し言い過ぎたかなと反省しています。
それから、宇宙で働くことを赦してくれてありがとう。やっぱりお父さんも宇宙が好きだったんですね。いつも宇宙のことになると逃げてばっかりだったけど、お父さんは前からお母さんのこと、特にお母さんが宇宙をとても好きで、その宇宙で働いていたということを話すときは、まるで自分のことのように嬉しそうでした。
それに、お父さんはうまく隠していたつもりだったのかもしれないけど、私はお父さんが教えてくれる前から、お父さんが宇宙で働いていたことも、お父さんとお母さんが宇宙で知り合ったらしいことも知ってたんですよ。
だから、「なんで私だけ宇宙で働いてはいけないの」と私はあの時ずいぶんお父さんに言いました。でも、もうそんなことは言いません。お父さんは今は宇宙で働いてないけど、お父さんも私も、そしてお母さんもみんな“同類”なんですから。
最後に、私はこの前教官に「なかなか筋が良い」って褒められました。その教官は滅多に生徒を褒めないことで有名なんです。もしかしたら意外と早く、私が操縦する宇宙船にお父さんが乗って、お母さんの造った宇宙都市に行けるかもしれませんよ。
みさきより」
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四、手紙と共に
「お父さん」
「おお、みさきか」
旅客宇宙船の船内。客席に座って手紙を読んでいた洋はみさきに声を掛けられる。
「何読んでるの?」
「みさきが家を出たときにくれた手紙だよ」
客室内は様々な乗客で込み合っている。洋が顔を上げると、みさきが乗務員の制服に身を包んで立っていた。
「やだ、まだあの手紙持ってるの?」
「母さんが僕にくれた手紙と、僕がみさきに出した手紙も持ってるよ。僕がみさきに出した手紙は写しだけど、これはみさきがくれた数少ない手紙だし、どれも大切な手紙だからね」
「私の手紙なんて捨ててくれればいいのに」
洋の手元の手紙をのぞき込むようにしながらみさきが言う。でも、そう言うみさきも懐かしく思っているようだ。客室内は出港前ということで相変わらず、乗客で込み合っている。
「それより、時間は良いのかい?」
「大丈夫よ、お父さんの顔をちょっと見に来ただけなんだから」
「それから、他の人もいるんだ。『お父さん』と呼ぶのは止めてくれないか」
洋はみさきに注意する。気恥ずかしいというよりは、子離れしたつもりでもみさきをまだ子供のように思ってしまうことがあるためらしい。
「分かったわよ、『洋さん』」
「こらっ」
すると、乗務員室に戻ろうとしていたみさきは美穂の口真似をして答える。洋はまだ親として注意してしまうことがあるのだが、その威光は大分弱ってしまっているようだった。
(みさきも段々美穂に似てきたな)
みさきは美穂のことを直接はほとんど知らない。口真似も映像か何かで覚えてやったのだろう。けれど、洋はみさきを客席で見送りながらそんなことを思う。
(あんなに小さかったのにな)
そう思いながら、洋は美穂が生きていたころのことを思い出しもする。美穂は結局、みさきが一人で立つようになったのを自分の目で見ることはなかった。美穂はあのころ、みさきが宇宙を目指すと思っていただろうか。
「船長の木原です」
洋がそんなことを思っていると、客室に船長の案内が流れる。
「本日は本船に御搭乗いただきありがとうございます。本船の運行は船長の私、木原誠二と副船長の滑川みさきが担当致します。まもなく出港です。どなた様も御席に御着きの上、シートベルトを御締め願います」
洋は現実に戻る。洋はみさきが手紙に書いた通り、みさきが操縦する宇宙船に乗って美穂が造った宇宙都市へ旅立つところだった。
「出港致します」
“副船長”みさきの声が聞こえる。洋は三通の手紙と共に旅立つ。
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もっとも気に入っている作品の1つで、漢字にするか仮名書きにするかといった修正を少しだけ行いました。
今はこの雰囲気の話を全然書いてないので、ぜひまた書きたいと思います。
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(01/01/10 制作、07/09/17 再修正の上再掲載)
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