雲枯の社会学

さとう じゅん


「雲枯」と書くと何か風情を感じさせるから不思議だ。普段は汚いものとされているが我々人類が食べることを止めない限り排泄されるクセモノだ。しかし私の小さい頃は畑の肥料の一部として美味しい野菜の肥しとなっていた。田舎の香水とも呼ばれた。気の毒に肥溜めに落っこちた話をかつてよく聞いた。しかし現在では腰掛けてジャーと10リットル以上の水道水を消費してオサラバ!次の瞬間生々しい記憶は流れさる。音がいやだと使用の前に10リットル消費する人種も多いから環境的にはヒドイシステムの中で生活していると思い知る。この10リットルを節約しようと水タンクの容積を小さくするために物を入れるアイデアもあるが浄化槽のもつ当初の設計機能が失われてしまうから雲枯は社会性を帯びてくる。

私の父(74)は無類の読書家で、退職した今でも1週間に数冊のペースで40年以上も継続している。小学校入学前、父親に連れられて私は何時間も本屋にいたからそれは退屈極まりない場所だった。しかしいいこともあるのが人生だ。私は本が沢山ある図書館などへ行くとまず雲枯がしたくなるから便秘薬はいらない。あの高く積み上げられた重圧感が・・・効くのだからたまらない。

家内の父(71)は、かつて世田谷区S署の刑事だった。退職後、遊びに行くと必ず捜査の苦労話が晩酌のつまみとなる。時効になった3億円事件を始め、あの職業は人生のあらゆる面とまともに対面できなければ勤まらないと実感できるほどのものだ。高級住宅街あらしの泥棒が押入れや引出しから金品をせしめ、最後に部屋の中央部に置き土産の雲枯を置いていく連続強盗事件があったそうだ。犯人のウンが尽き捕まったそうだが、何とも理解しがたいケースではある。

高校生の時、先輩の農場で牛の「飼え付け」(朝夕、牛舎の牛糞をきれいに片づけて新しい草を並べる作業)を1年半ほど無償でした経験がある。4つの胃で反芻された「干し草」と「ペレット」と呼ばれる配合飼料の混合排泄物が顔や手に付いたことももちろんある!彼らのものはいつも柔らかい。13年生きたペットの2羽のアヒル、「レモンとピピータ」も常に水分補給するから下痢状態だった。日立市のかみね動物園のローランドゴリラは正確なアンダースローで糞を見学者に投げつける趣味を身につけたからネットが張られた。故に趣味を奪われたゴリラ君のストレスはつのるばかりだ。さてあなたの健康のバロメーターはいかがなものか?

大学時代一緒にバイトに出かけたM君は銀座で下痢になりドタ靴でなんと第一ホテルのフカフカ絨毯を歩いて行ったから大人しすぎる彼の性格に合わないと「大した度胸だ!」と一瞬考えた。しかしだよ・・・大したものは多分ホテルのボーイの方でそぐわない身なりをした見知らぬ通行人の緊急性を察した点であろう。M君は現在、北海道で臨床検査技師をしているから雲枯とつきあっているはずだ。貴重な職業だ。

友人のアメリカ人のT君が突然東京都内の地下鉄で下痢に見舞われた。彼の偉大さと機転の良さは駅員にトイレの所在を確かめるや否や駆け込んだ個室で発揮された。まずは目的を果たし次の動作に移る。なんと紙がなーい!ハンカチや雑誌も持ち合わせていなーい!ないものはなーい!なんにもない!なんと靴を脱ぎ靴下で拭いたのである。そして「流した」から後で詰まったに違いない。いいアイデアではあるが皆さんくれぐれも真似しないように!地下鉄のトイレが溢れたら怖いぞ!この事件以降、彼のあだなが「ミスターソックス」になったのは言うまでもない!

当時3才の息子がタイドのイギリス研修旅行(96年8月)の一員として参加した帰りの飛行機のエピソードはマナーのありかたを考えさせるから雲枯はすごい!10日間のイギリスでの塩辛い食事と運動不足に時差が重なり便秘気味の彼は私と共に機内食のサービスのあと最後部のトイレに並んでいた。次は息子の番と言う時ナマズルイ白人男性が息子を差し置いて入れ替わりの瞬間に駆け込んでしまった。私が 「ヘイ・ミスター、イッツ・マイターン」 と言ったときにドアのロックの音が聞こえたから息子は「お父さんもれるぅー」。ナマズル氏がへいへいと出てきた後「よく頑張ったね」と誉めてやった。さて用をたしてドアを開けた瞬間、わたしは仰天。何と10円玉大の大ウサギの糞らしきものが転がっているではないか!夏で半ズボンだったから隙間から転がり落ちたらしい。息子の元所有物に間違いない!父親の直感である。周りをサッーと見渡しモウイチド個室に駆け込みペーパーを引きちぎりポロンと落ちた落下物を拾いあげ文字通り脱兎のごとく個室に引き返した経験は忘れられない。しかし!ナマズル氏がウサギになったら、もっと後始末は大変だつたハズ。

飛行機のトイレにはまだ思い出がある。サンフランシスコから成田への便(ベンではなくビンと読むべし)での出来事。Vacancy(空き)の表示を確認してドアを開けるとなんと70才代のおばあちゃんが腰掛けて用の真っ最中。こちらが申し訳ないことをしてしまったような罪の意識が頭をかすめたが・・・・そうではない筈だ。旅行会社の添乗員は買い物よりもまずロックすることを教えていただきたい。飛行機のトイレは洗浄液と空気圧を併用したものだが、あの穴に吸い込まれてしまいそうな音が幼児にはコワーイ存在である。地下鉄事件のミスターソックスは2年前からN航空のフライトアテンダントになり東海岸とヨーロッパ路線の乗務についている。就職おめでとう!

友人B君がアメリカ旅行をした時トイレから戻った隣の席のステキなレディのパンタロンのベルトのあたりからトイレットペーパーがぶら下がっていた話はすご味がある。あなたなら何と話かけるだろうか?勇気が必要だ。

ホノルルにあるハワイ王朝の遺産を引継ぐ有名な私立学園の男子学生トイレはおしゃれな曲線が一見優雅なフランス製の小用便器がある。この「おしゃれ」が災いした。私が引率した中学2年生の男子生徒の一人が洋式のように完全に座っていたのを見た私は心臓が止まる思いをした。幸いなのはこの事件を発見したときボーイズルームにいたのは本人だけだったことだ。大を落としていたら間違いなく大事件であった。しかし間違えるのは日本の中学生だけではない。その逆もある。オーストラリアから来日したばかりのS君は和式に何と逆向きにペタンと座ったのだから!金隠しが尻隠しになったのだ。

LA郊外に事務所をもつシシリー(イタリア)出身の工業デザイナーのM氏のバスルームは黒系大理石にゴールド仕上げの便器と浴槽で圧巻であった。「小」だけ借りたけど、どうも落ち着きがないナ。あのキンピカはおしゃれでなく悪趣味というんじゃないかなぁ。枯れた感じがしないのだ。

おしゃれなものは青山の善光寺にある。これはシンプル極まる形なので間違う人はいないであろう。ただ単に筒型の素焼きの小便器が並んでいるシンプルさが何ともいいのだ。

普段は敬遠する「雲枯様」は病気で入院したりするとただ単に「ウンチ」のレベルから「便」と変化する。出なければ看護婦さんが薄いグローブを付けてほじってくれるそうだ。しかし、最新テクノロジーで固めた宇宙旅行はちょっとまた異なるから奥が深い。土井宇宙飛行士のスペースシャトルチームは、なんと!オムツをつけたそうだ。オムツをオツムに付けたのではない。オムツはあくまでケツにつけるものだ。

会社の営業マンのK君は、ようやく見つけた彼女から頂いた婚約指輪を独身の仲間に見せびらかしているうち、何を思ったのか、ハタマタ魔がさしたのか、薬指から外し何と口の中にいれてふざけているうちにゴクンと飲み込んだ。そこを通りかかった社長に見つかり「男の責任で回収せよ!」と叱られた。2日後、彼は自分の愚かさをトイレで発見するのだが、最後の勇気が足りず10リットルの水と共に流してしまった。その後まもなく、この縁談が流れたのは言うまでもない。こんな男なら一緒にならない方がいいと私は思う。

キンポ空港(韓国)の乗り継ぎエリアのトイレは、また格段と趣が異なる。「北朝鮮に遊びにこい!」「Rolling Stones in Seoul」とかウン、なるほど長い対立構造の中にも雪解けを感じさせる落書きがあるのだ。(世界各地で見られる性的な描写やイラストはここでは一つも見られなかった)乗り継ぎの時間をトイレ観察に費やす者は私以外にそう居ないだろう。

さて、ここまで読んでくれたあなたは私がマニアックな雲枯研究家や動物生態研究家、あるいは神経のキレタ変態愛好者や売れそうにない漫才師でなぁーい!ことを鋭く嗅ぎ分けてくれた筈だ。そう願いたい!が・・・ローマ字で自分の名前を書くとJUNだからUNとそもそも相性がいいのかも知れない。

我々は近代化された社会システムのなかで大量の天然資源を消費し続けていることを忘れる程、鈍感であってはならないと思う。マレーシア(イスラム教圏)では、その都度手で水洗するから床がベチャベチャ、いつも濡れた状態である。タイの田舎でも必ず手桶と水瓶がそこにはあった。しかしよく考えると水洗トイレの 1/5以下の水量できれいになるから近代文明とは何ぞや?と考える場となる。


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