2000/10/23update

第3回公明党全国大会 重点政策(案)
21世紀「健康日本」の構築
――“活力と安心の生活大国”をめざして――


第1部

第三章 安定した社会保障制度の確立
〜確かなセーフティネットを求めて〜


1 新しい世紀の社会保障

○ わが国の社会保障制度は、時々の国民の様々なニーズに応えながら、戦後半世紀の懸命な取り組みにより、大きな発展を遂げてきました。今や、先進諸国に比べても遜色のないメニューと水準に達し、国民生活の上で、必要不可欠な制度として定着するに至っています。しかしながら、急速な少子・高齢化の進行と平成以降のバブル景気崩壊に端を発している経済不況のなかで、社会保障制度に対する不安が高まっています。高齢世代はもとより、特に社会の第一線の現役世代に、将来に対し暗いイメージと、社会保障制度に対する大きな不安感が生じています。

○ わが国は、世界に類例を見ない「高齢社会」を迎えています。このことは誠に喜ばしいことであり、国民一人一人がこうした誇るべき長寿・高齢社会のなかで、健康で、そして安心して生活を送ることができるよう"健康日本"を創造していかなければなりません。そのために、セーフティネットとしての社会保障の改革を断行します。

○ その視点は、少子・高齢化の進行、経済・財政の変動などの影響を最小化する持続可能な社会保障制度にするということであり、そして、支え手が少なくなる状況にあっては、何よりも、世代間や世代内の公平性が重要と考えます。

○ また、年金制度や医療、介護などを個別の制度として運営するのではなく、年金、医療、介護、そして雇用や家庭、家族政策も含めて、制度全体を一つのシステムとして整合性のある、かつ効率的な運用が確保されなくてはならないと考えます。今日わが国が抱える構造的な社会問題に対して能動的・予防的に働きかけていく総合的な社会政策を進めます。

2 確かなセーフティネットを求めて

(1)活力ある健康長寿社会の樹立

○ 高齢化の進展のなかで、ただちに健康を害する人や介護を要する人が急増するわけではありません。わが国の高齢世代の意識は、老いと病の苦しみの長寿から、健康を満喫し老いを楽しむ長寿へと変貌を遂げようとしています。
○ こうした「健康な長寿」への意識変革こそが、 高齢化対策の土台と考えます。そのために、食生活や運動などを始めとする生活習慣の改善、喫煙などの危険因子の低減、充実した健診等による疾病の予防など、総合的な健康づくり対策を進めます。また、健康な高齢期の創造のため、脳卒中対策の推進や痴呆の原因究明、介護の充実、さらには、骨・関節についての研究からリハビリまでの総合的な対策などを「メディカル・フロンティア戦略」として積極的に進めます。
○ 高齢世代が健康づくりの取り組みを長期的かつ意欲的に持続していくため、運動習慣を身に付けるためのスポーツ施設の充実やレクリエーションの活性化などが重要です。このような対策が効果的に実施されるよう、国、自治体、研究機関、教育機関、マスメディアなどの緊密な連携をはかりながら、健康長寿社会の樹立に向けた多角的かつ継続的な基盤づくりを推進していきます。

(2)自助・共助・公助のベストミックス

○ 自立を重んじ価値を創造する21世紀の社会保障制度とするためには、自助・共助・公助のバランスが必要です。今日まで培われてきたわが国の社会保険方式は、そのメリットを活かしつつ、社会保険料と公費により安定した財源確保をはかることが必要であり、今後ともこれを維持します。
○ 公助を補完する活動としてNPOなど民間非営利活動が新しい共助の仕組みとして定着してきています。こうした活動の財政基盤を強める寄付金税制を整備します。また、高齢者同士の支えあい活動やシルバー人材センターなど地域における元気な高齢者が世代内共助として活躍できる環境づくりを積極的に進めます。

(3)高齢者の実情に即した制度

○ 今日まで社会保障の充実がはかられるなかで、高齢者は、ともすると弱者として福祉の対象者、支援の対象者という見方がされてきました。高齢者の生活の実情は、一律の経済弱者ではなく、もちろん、一律の富裕者でもありません。これからの少子高齢社会においては、人口の4分の1から3分の1を占めることになるこうした高齢者の方々の生活の実情に即して、新しい社会保障システムを築いていかなければなりません。
○ 高齢者の方々には、可能な限り元気で生きがいのある生活を送っていただくため、「健康日本21」の政策を進めるとともに、生活習慣病対策や介護予防対策を重点的に行います。
○ その上で、高齢者の資産所得に応じた負担のあり方、相続税・贈与税のあり方などについて検討を進めるとともに、高齢者の居住用資産を資金化して豊かな老後生活を可能にするリバース・モーゲージ制度の導入を進めます。

(4)公平・公正な世代間、世代内負担

○ 少子高齢化の進行のなかで、若い世代の社会保障制度に対する不安感が大きくなっています。特に、わが国の潜在的国民負担率(租税負担+社会保障負担+財政赤字の対国民所得比)はすでに49%を超えており、将来世代の負担増には強い関心が持たれています。
○ こうした事態に対応するためには、社会保障の給付面でも、ムダを省き、効率化・合理化を図っていくことが必要ですし、あわせて現役世代と高齢者双方が可能な限り負担を共有していくことが求められます。
○ 介護保険制度は、すべての国民で介護負担を分かち合うとの理念のもと、20歳以上の国民の加入とすべきです。また、高齢者の方々に対しては高額所得者の所得控除のあり方も検討し、生活の実情に即した適切な課税とする必要があります。この場合、こうした世代間の負担の公平性とともに、世代内の公平性も重要な視点と考えます。

(5)システムの効率化・合理化

○ 社会保障の制度内の改革として、年金、医療、介護など制度間の有機的な連携を再構築し、効率的運用により歳出の削減、制度間の重複や不公正を是正しなくてはなりません。
○ 社会保障の趣旨を超えない範囲において、競争原理を導入し、結果として歳出の抑制をはかります。厚生年金の二階部分の民営化や医療機関や保険者間における競争原理の導入などを幅広く検討することが必要です。
○ なお、わが国の国民医療費はすでに30兆円を超え、国民所得の伸びを大きく上回っており毎年8%程度の増加を見ています。経済の低成長を考えると、今後の財政健全化計画に合わせ医療の適正水準にかかる目標値を設定の上、制度改善に取り組むことが必要と考えます。

(6)高齢者や女性が働きやすい雇用環境

○ 女性や高齢者の雇用を促進し、労働人口を拡大する対策を進めなくてはなりません。そのための制度改革や社会的習慣の打破に努める必要があります。
○ 育児と仕事の両立を可能にするため就業環境の整備、病後児保育などの特別保育をエンゼルプランのなかで着実に進めます。また、ファミリーサポートセンターの大幅な拡充をはかります。
○ 60歳代現役社会をめざし、継続雇用制度などの推進をはかりながら、「雇用における年齢差別禁止法」の制定によりエイジフリー社会を実現します。

(7)有効な少子化対策

○ 少子化の進展は高齢化上昇率の主たる要因であると同時に、21世紀のわが国の根幹を揺るがしかねない問題です。この事態を克服するには、長期的な展望に立った不断の取り組みが必要です。こうした少子化社会における総合的な施策の推進のため『少子化対策基本法』を制定します。
○ また、社会保障制度のなかにおいても、総合的かつ効果的な少子化対策を進めていかなければなりませんが、今後は特に子育て家族支援策を強化する必要があります。地域の育児力の強化や育児不安解消のための支援策、保育所や幼稚園の機能の見直し、無認可施設の評価、ベビーシッター利用への支援拡充など、専業主婦家庭も対象とする、子育て家族を支援するための総合的な取り組みを進めます。

(8)個人単位の制度設計

○ わが国の社会保障制度は、給付と拠出について、基本的単位は個人または世帯となっています。税制における支出と負担の単位の考え方もあり、今日まで様々に議論されてきました。国民年金第三号被保険者の拠出、社会保険の加入制限、遺族年金などの世帯単位の考え方が女性の就業意欲を削いでいる、負担の公平性を欠いている、などの指摘もあります。
○ 女性の就業実態や離婚率の上昇、男女共同参画社会の推進等を総合的に考えて、今後においては、社会保障の基本単位を個人として制度設計をはかるべきと考えます。

3 具体的な政策提言

(1)社会保障基金機構の創設

<1> 現在、わが国の社会保障制度は、年金、医療、介護、そして雇用と各制度ごとに分かれていて、国民にとっては負担と給付の全体像が見えにくく、また、加入、保険料の納付、給付等について利便が悪く、給付面でも公平に欠けるところもあります。

<2> こうした問題解決へのアプローチとして、また、総合的な運営という観点から、これらの社会保険各制度を一つに集約する社会保障基金機構の創設を提案します。この機構の設立により、加入、納付、給付等にかかる手続きを一つにまとめ、国民の利便の向上をはかるとともに、公平の確保と財政の安定をはかろうとするものです。

<3> 具体的には現在の社会保険庁を改組してこれに当てます。省庁再編によりすでに徴収の一元化などが検討されていますが、四制度を通じて被保険者・受給者管理を一本化し、個人単位の被保険者カードを交付することとします。このカードの活用により、国民が知りたいときにトータルの年金額がわかるような、便宜的個人勘定方式による試算数字の照会システムも導入します。

<4> 所得保障である現金給付を行う年金保険、雇用保険については、社会保障基金機構が経営主体となります。現物給付を行う医療保険、介護保険については、医療保険は都道府県を経営主体とし、介護保険は市町村から広域連合へと拡大を進めます。

<5>老人保健制度については、75歳以上の後期高齢者を被保険者集団とする「後期高齢者医療保険制度」とし、都道府県を保険者とする改革を行うべきであると考えます。自己負担については上限付き定率負担にするなど介護保険制度と横並びの負担方式が好ましいと考えます。

<6> こうした改革は、財政健全化5カ年計画の第T期から着手し、それ以降、段階的に実施し、体系化をめざします。

(2)子育て家族支援対策の取り組み

<1> 子育て支援策の柱として児童手当の拡充をはかってきましたが、さらに、欧米並みに16歳までの児童家庭を対象とするよう拡充をはかります。わが党は、税制における年少扶養控除を発展的に解消し、手当として支給する改革をめざします。

<2> また、「少子化対策基本法」の制定により、今なすべき雇用・労働・福祉・教育分野の少子化対策の体系化をはかると同時に、今後は、子育てにかかる費用を社会全体の負担とする観点から、税制のあり方と同時に「児童年金」や「子ども保険」などの社会保険方式の導入についても幅広く検討します。

<3> さらに、民間活動を積極的に支援するため、現行の子育て支援基金やこども未来財団の役割を整理して、子育てサークルなどの地域の子育て支援NPOに対する支援を強化します。また、出産育児一時金制度の改善や無認可保育所への支援を進めます。

(3)公的扶助の見直し

 21世紀の社会保障を展望する場合、これまで以上に自己責任原則の下、社会保険制度が運営されることから、こうした制度の外側に追いやられてしまう方々への対策が重要となってきます。現行の生活保護法は、厳しいミーンズテスト(資産調査)の下、運営されており、無年金の方々のなかには生活保護基準以下の生活をされている方も多く見られます。したがって、生活保護の医療単独給付(医療保護)などの事例も参考に、公的扶助と社会保険制度との谷間を埋める新しいシステムを検討します。

(4)社会保障財源のあり方

<1> 少子高齢化の急速な進展により、社会保障制度内の改革だけではその目的を達成することは困難な状況となっています。財政的にも、制度的にも社会全体のなかで解決しなければなりません。21世紀の社会保障を考える場合、税と社会保険料のあり方について再検討し、税の出動範囲を明確にするとともに、安定的な財源を確保する必要があります。

<2> そうした観点から、個人の健康に深くかかわるたばこ税や環境政策と社会保障政策のクロス現象が見られる環境税などについては、社会経済の動向を勘案しながら、社会保障財源として今後検討を進めます。
 

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